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作品名:空族とハナ族とハラレニ国王の憂鬱 作者:空と青とリボン

第3回   3
一方、ハラレニの隣国、ジサ。ジサ国一番の繁華街にルシアはいた。ルシアは今日もルシアだった。
「ねぇねぇ、きみきみ。僕と付き合わない?僕と付き合うとデートは空中散歩という特典つきだよ。」
「ジャノの翼でいつでも飛べるから別にそんな特典いらないわ。」
ルシアに声をかけられた女性はつーんとすまして行ってしまった。
「なんだ、金持ちのお嬢様かよ。」
気を取り直し辺りを見回す。ルシアは今日も声かけに勤しんでいた。一目見て気に入った子に声をかけるのがルシアの日課。
「おっ?」
ルシアの目に質素な身なりの可愛らしい女性が急ぎ足で歩いていくのが留まった。
「ねぇ、君。僕と付き合わない?僕と付き合うと空中散歩という特典つ・・・。」
ルシアの口説き文句が言い終わるか終らないかぐらいだ、少々食い気味に
「そのうちジャノの翼が手に入るようになるもの。それまで待ってるわ。」と早口で断りその娘は去ってしまった。ルシアはやれやれと娘の後ろ姿を見送る。
「ちぇっ。ジャノの奴、余計なことしやがって。」
ルシアは唇を尖らせているがもちろんそれは本心ではない。
ルシアはこの7年間、相変わらずだった。気に入った女の子を見かけると声をかける。そしてその度に玉砕するのだ。しかしめげない。めげないのがルシアのいいところだ。ルシアは天然パーマの空族。外見は細見だけど均整がとれていて見栄えがする、おまけにノリも良いので決して女にモテないわけではない。しかしいかんせん軽すぎた。いや、軽いというより余計なひと言をついつい言ってしまう。言いたいことはハッキリ言い、言わなくていい事もハッキリ言う。なので女性に
「その一言が余計なのよ!!」と言われほっぺを殴られふられるタイプ。おかげで今は特定の彼女はいない。ルシアのいいところはめげないだけではなく根に持たないところ。フラれても相手を恨まず常に前向き。これは見習うべきことかもしれない。
次はどの子にしようかなと通りを見回していた時だ。石畳みの道を横切る影に気づいた。影を追い、見上げると自由に空を飛んでいる人間がいる。背中にはジャノの翼。
「へぇ〜。やるじゃんジャノ。」
ルシアはなんだか誇らしげな気持ちになった。ジャノの翼は値段が高く庶民には手が出せない。しかしこうやって確実に世界に広まっているのだ。しかし、ふと思った。このままジャノの翼が広まり飛ぶ事が当たり前になってしまったら自分の口説き文句はますます使えなくなるのでは?
「やばい、やばい。急がないと。」
ルシアは張り切って通りを見渡す。一軒の画廊が目に入った。豪華な作りの画廊でガラスケースの向こうには有名な画家の絵のレプリカが飾られている。
ルシアがちらっと中を覗くと人影はまばらだった。厳かな空気に支配されている空間であることは外から見ても一目で分かる。画廊の前に立つとまるで教会の中にいるような気分になった。
ルシアはふとカリンのことを思い出す。
「そうだ、久しぶりにカリンに会いに行こう。」
思い立ったルシアはさっそく翼を広げた。

 ハラレニの町。閑散という言葉を知らないのでは?と言いたくなるほどのにぎやかな町の一角に画廊はある。カリンはそこで個展を開いている。画材屋の店主、フランキーの厚意で絵の学校に通わせてもらっているカリン。本格的に絵の勉強を始めて6年、カリンはめきめき上達していった。
ある日、カリンが通っている絵の学校に画廊のオーナーが所用で来ていてその時にカリンの絵が目に留まったのだ。そしてカリンの個展が開かれることになった。そのことをフランキーはわがことのように喜んでくれた。始めは個展を開くなんて自分には時期尚早なのではと思っていたカリンもフランキーの喜びようを見ていたらお断りしますとは言えなくなってしまった。
かくしてカリンの個展は開かれたわけだがカリンの予想に反して個展は大盛況。狭い廊下の中、人々でごったがえしている。画廊がこんな風に混むことは珍しいことであった。これは喜ぶべきことなのだがカリンはなぜか浮かない顔。
「綺麗な絵・・・。」
「素晴らしい!!」
お客は絵を見つめながら感嘆の声を漏らすがその声を聞いてもカリンの心は躍らない。
「すみません。この絵、あなたが描いたんですよね?」
「はい、そうです。」
「あなた空族ですよね?もし迷惑でなかったら翼を見せていただけませんか?」
突如声をかけてきた二人の若い女性は翼を見せてくれるはずだという期待の目をしてカリンを見つめる。カリンは正直あまり気乗りはしなかったが
「・・・いいですよ。」と仕方なしに背中の翼を見せた。カリンの翼は他の空族と違ってとても小さい。おまけに片方の翼は歪んでいた。これは生まれつきのものでカリンは一度も空を飛んだことはなかった。飛べないのだ。それでも翼を持たない人間からすればそれでも珍しいもので、女性たちはカリンの翼を見てはしゃいでいる。
「きゃあ〜。素敵!」
「かわいい翼!」
女性たちはカリンの翼に萌えている。だがカリンは複雑な心境になった。こうやって親しみをこめて気軽に声をかけてくれるのはとても嬉しい。でもこの人たちは僕の絵を見に来てくれたんじゃなくて翼を見に来たんだな・・・。
「見せてくれてありがとう!!」
女の子たちはご所望のアイドルに会えてご満悦のようだ。うきうきしながら帰っていった。
カリンは複雑な思いを抱いたまま自分の絵を見つめた。
大勢の人に自分の絵を見てもらえるのは嬉しい。でも自分に空族という肩書がなかったらこの絵は誰にも見て貰えなかったのではないか。そう考えだすとこの場にいるのが辛くなった。だが、カリンのジレンマをよそに絵は飛ぶように売れていく。
個展は客が途絶えることはなかった。大盛況のまま、まもなく閉店時間を迎えようとしていた。
秋の夕方は帳が落ちるのが人々が思うよりも早く。通りを行く人は慌てて買い物を済ませ家路を急いでいる。それは画廊も同じで、潮が引くように客はいなくなり今は閑散としている。
カリンは店じまいの支度を黙々と進めていた。そんな中、カリンはとある老人の存在に気づきふと手を止める。その老人はボロボロの服を身にまとっていて華やかな画廊ではひどく浮く。おまけにやせ細っていて顔色も良くない。カリンはその老人が気になって仕方がなかった。老人の身なりに、ではない。悲しそうな目が気になった。老人はとても悲しそうな目でカリンの絵を見つめているのだ。
「なんだろう・・・。」
カリンは老人のことが気になり声をかけようと近寄った。すると老人はカリンに気づき慌ててその場から離れてた。近づいたとたん、悲しみの目が怯えの目に変わったのをカリンは見逃さなかった。
「待ってください!!」
カリンは慌てて老人を追うが老人は外へ出てしまう。そしてそのまま人ごみの中へ消えてしまった。カリンの心にひっかかるあの老人の悲しそうな目。頭から離れない。すると突然。
「あんた空族でしょ。」
女性がつっけんどうな言い方で聞いてきた。そばかすが印象的なその女性は敵意丸出しの目でカリンを睨んでくる。カリンは、なんだろうこの人、あまり感じよくないなと思った。
「そうですけど、何か。」
「見ただけで空族って分かったけどね。いいわよね、空族は翼があって。」
カリンは一瞬ムッときた。この女性、なんだかやけにつっかかってくるなぁ。
「いいわよねぇ、あなたは。空族という肩書があるから。その肩書があるおかげでこんなに注目してもらえる。こんな絵でも見てくれる人が大勢いるんですもの。」
初対面なのにあまりに失礼すぎる物言い。それなのにカリンは怒るどころか女性の言葉に茫然としてしまった。思ってもみなかったことを言われたからではない、思っていたことをずばり言われたからだ。ずっと気に病んでいたことを言葉にされ胸が痛くなる。女性は傷ついているカリンにお構いなしに言いたいことをズバスバ言う。
「私の方がずっと上手いのに誰も見てくれない。誰も私の絵を気にかけてくれない!それなのにあんたは空族というだけでちやほやされてさ!」
どうやら女性も絵描きのようだ。自分なりに努力しているのに報われなくてここに吐き出しにきたのだろう。軽蔑と怒りがない交ぜになった目を一向にやめようとしない。
刺々しい言葉を容赦なくカリンにぶつける。
「あなたの絵は物珍しいだけよ!!いっとくけど絵が物珍しいわけではないわよ、あなたの翼が物珍しいから皆見に来るのよ!!」
女性はカリンが何も反論してこないのをいいことに言いたい放題。いや、言っている内に怒りで我を忘れてしまったのか。カリンは尚、沈黙したままだ。
「だったらその物珍しさを超えるような作品を描いてみたら?」
突然誰かの声が割り込んできた。
カリンは驚いてその声の主を探す。女性も突然反論されて驚いているようだ。
「ルシア!!」
ルシアだった。カリンは友に再会出来た喜びでいっぱいになる、まるで女性の辛辣な言葉など忘れてしまったかのように。しかしそれが女性にとっては余計に癇に障ったようで。
「あんたも空族ね。仲間を庇うとか美しき友情ってやつ?」
鼻でせせら笑う女性にルシアは
「そういう性根だから皆に見てもらえる絵が描けないんじゃないの?」
ときつい反撃。
「な・・・なんですって!?」
女性はとたんにおかんむり。なんなのこいつ!?と酷く憤っている。だがそれはこっちの台詞だとルシアは思った。カリンは女性がますます顔を赤くして怒りはじめたので話題を変えようと
「ルシア、いつこの町に来たの?」と尋ねるがルシアは答えない。ルシアは怒っている。いつも飄々としてめったにおのれの胸の内をさらけ出さないルシアだが、今は相当怒っている。一見冷静そうに見えるから余計にやばい・・・。
「なんなのよ!あんた!!」
女性は今にも掴みかかりそうな勢いだ。しかしルシアは沸々とした怒りを隠し
「自分のふがいなさを責任転嫁して他人にぶつけて発散している人なんかに教える名前はないんで。」と言ってのけた。女性の頭の中でぷつんと何かが切れる音がした。カリンもその音を聞いたような気がした。カリンが恐る恐る女性を見る。案の定女性の唇は震え、顔は赤鬼。それでもルシアはお構いなしに
「空族が描いた絵が物珍しいから皆見に来ていると思うのならその物珍しさを超えるような絵を描けばいいじゃん。もっと物珍しくて凄いやつをさ。空族の肩書をあんたの絵で超えてみろよ。出来ないの?自信ないの?自信ないから絡んでるの?絡んでる暇があったらもっと自分の腕磨きなよ。」
「!!」
もう女性は言い返せないようだ。ぐうの音もでないとはこのこと。
唇をぐっと噛みしめルシアを睨んでいる。そして
「言われなくても超えて見せるわよ!!!」
怒りの捨て台詞を吐き、踵を返して嵐のように去って行った。ルシアはやれやれと肩をすぼめた。言いたいことを言って今は清々しい顔をしている。カリンは早速
「ねぇ、いつこの町に来たの?ジャノには会った?」
どうやらカリンは先ほどの女性のことはもう忘れようとしているようだ。ルシアはそんなカリンの態度に少々苛立つ。
「あのさカリン、あんなこと言われてなぜ何も言い返さないわけ?」
ルシアに責められカリンはまた押し黙ってしまった。そして誰に聞かせるでもなく
「だって、彼女が言っていたとおりかもしれないし・・・。」と呟く。もちろんそれはルシアの耳にも届いた。ルシアはため息をつきぼやく。
「まったくこれだから悩み症は・・。」
ルシアはカリンの苦悩を悟ったのだ
「それよりルシアは何しにここに来たの?」
「何しにって別に?いつものようにカリンをからかいに来ただけ。」
「そっか。」
納得するカリン。いや、そこで納得しないでという感じだが。
「ジャノとナーシャには会った?」
「いや、まだ。」
「そうだ。シュンケ達に会った?元気にしているかな?」
矢継ぎ早に質問するカリン。明るく努めようとしているのだろう。
「半年前、空族の村に里帰りした時にシュンケに会ったよ。相変わらず元気にしていたさ。」
「そっか、良かった。僕はここのところ忙しくて2年も空族の村に帰っていないんだ。会いたいなぁ。」
カリンが懐かしそうに呟く。ルシアはそんなカリンを見てあることを思いついた。
「じゃあ、これから空族の村に帰ってみない?僕もちょっと村に用があってさ。」
「用って何?半年前に帰ったばかりなのにまだ用があるの?」
「うるさいなぁ。野暮用があるんだよ。」
「野暮用ねぇ・・・。まぁいいか。僕もそろそろ里帰りしてみたいと思ってたところなんだ。個展やっているうちは駄目だと言われるかもしれないけど一応フランキーさんとオーナーに頼んでみるよ。」
カリンは生き生きとした目になり、声を弾ませてオーナーの所に駆けて行った。実はルシアには思惑があった。それは女にモテまくる方法をシュンケから聞き出そうという魂胆。
女がいちころになる口説き文句があるならそれも教えてもらおう。一人ほくそ笑むルシアであった。それにしても、とルシアはカリンの絵を見る。
「悪くはないけどまだまだだな。」
しかし言葉とは裏腹に顔はそう言っていないわけで。とても誇らしげだ。
ほどなくしてカリンは戻ってきた。
どうやらオーナーとフランキーから帰郷の許可をもらえたようだ。かなり嬉しそうに里帰りの準備をしている。どんなに遠くで暮らしても、どんなに近くで暮らしても、故郷というものは恋しいものだ。そして二人は空族の村へと向かった。


 ルシアとカリンは4日かかってようやく空族の村へと辿り着いた。
「カリンが飛べればもっと早く着いたのに。」
「うるさいなー。ルシアが道中、女の子に声をかけまくるから遅くなったんだろう。」
何やら言い合いを始めた二人。まぁいつものことだが。二人の姿にいち早く気が付いたのはトーマスだった。トーマスはびっくりして二人の元に駆け寄る。
「ルシアはともかく。カリン、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「うん。このとおり元気。トーマスも元気そうで良かった。」
「あのさぁ、僕との再会も喜んでよ。」
ルシアが口を挟めば
「お前は半年前に帰ってきたばかりだろう。」とトーマス。三人は再会を喜びあった。いつも物静かな空族の村が何やらにぎやかになり、何事かとラサールもやってきた。ラサールはカリンの姿をみるやいなや嬉しそうに顔をほころばせ
「やぁ、カリン。2年ぶりじゃないか。元気でやっていた?相変わらず女みたいな顔だな。」
「なんとか元気でやっていたよ。ラサールも相変わらず元気だね。」
ハイタッチで挨拶をした後、ラサールは次にルシアの後ろを見た。それもじろじろと。
「何だよ。僕の後ろに誰かいるのかい?」
ルシアが気味悪がって聞くと
「いや、お前さ。今度帰ってくる時は人間の彼女連れてくると言っていたよな?そう言って何年目だ?早くしないとおじいちゃんになってしまうぞ?」
ラサールがフフンと茶々を入れてきた。
「あぁ、残念ながら連れてくる彼女をどれにしようか一人にしぼりきれなかったんだよね。ほら彼女同士ケンカになっても困るだろう。まぁ、誰かさんにとっては一生縁のない話だよ。ご愁傷様。」
「誰かさんって誰だよ。僕のことか!?」
ラサールはムキになってルシアに食って掛かるがルシアに口で敵うはずがないのだ。にやりと笑うルシアにキーッと悔しそうなラサール。カリンはルシアの嘘は分かっていたがルシアの名誉のために黙っておくことにした。
シュンケの姿が見えた。カリンはすぐさま走り出す。
「シュンケ!!」
「おぉ、カリン。帰って来たのか。おかえり。元気そうだな。」
「うん、このとおり元気だよ。シュンケも変わりなくて良かった。」
大歓迎のオーラーがシュンケからこれでもかと醸し出される。カリンも大喜びだ。続いてルシアがやってきた。するとシュンケもルシアの後ろを見た。その瞬間カリンは思わず吹き出す。さすがにこれはルシアもムッときたようで頬を膨らませた。
「おかえり、ルシア。」
シュンケが出迎える。
「言っておくけど選べなかっただけだから。」
ルシアは頬を膨らませたままどんどん村の中へと入っていく。シュンケとカリンは顔を見合わせて苦笑いした。喜びを満面にたたえたおばば様やジム達も集まってくる。皆が皆、カリンとルシアの里帰りを心の底から喜んでいた。
歓迎の宴はすぐに始まった。目の前の河で釣れた新鮮な魚が姿そのままに豪快に炭で焼かれ出される。採れたての旬の果物が大かごいっぱいに盛られ、ぶどう酒もなみなみとふるわれた。カリンは人里での暮らしぶりを入れ替わり立ち代わり皆に聞かれている。盆と正月がいっぺんにきたような賑やかさ。カリンは改めて仲間のぬくもりをかみしめている。
シュンケはカリンのグラスにぶどう酒を少しだけ注いで
「ところでジャノとナーシャは元気か?」
「うん、元気にしてるよ。ジャノは相変わらず翼作りに忙しいし、ナーシャはもうすぐ子供が生まれる。」
「そうだったな。確か来月だったな。」
シュンケはまるで自分のことようにジャノとナーシャにもうすぐ子供が生まれることを喜んだ。そんなシュンケにラトはすがりつき「遊んでぇ。」とだだをこねている。
「ラトもちょっと見ないうちに大きくなったね。今3歳だよね。」
「子供の成長は速いものだ。あっという間に大きくなるぞ。」
すっかり子育てが板についてきたシュンケは上手にラトをあやしている。
「しかし人って変われば変わるもんだね。筋肉バカだと思っていたシュンケが今や良き父親だもん。」
「誰が筋肉バカだ?」
ルシアの、頭領を頭領とも思わない発言にシュンケが突っ込む。そんなシュンケに熱い視線を送る三人の女性がいた。ポーラ、ジズ、ランダだ。ルシアは目ざとくそれに気づく。
「ははーん。」
ルシアはしたり顔。シュンケは新たなぶどう酒を皆に配ろうと席を立って奥に向かう。ルシアはこの時を待ってましたとばかりにシュンケのあとを追った。


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