「俺にもしもっと力があれば今すぐあいつの胸倉掴んで問いただして綾に危害を加えさせないようにする。この命をかけてもな。でも現実はそう簡単にはいかない。俺とあいつの妖力の差はどうすることも出来ないんだ。あいつに向かっていっても返り討ちにされてしまう。俺が死んだら誰が綾を守るんだ!」 苦悶の表情で唇を噛みしめる依頼者。自分の無力さを悔やみ苦悩している。おそらくこれが本当の彼の姿であり、綾さんは自分の命より大切な存在なのだろう。 俺はまだ見ぬ如月の姿を想像してみた。拳が震えてくる。これは怒りだ。 「それでどうして欲しいんですか。」 茜さんが慎重に尋ねた。 ハヤトさんは即答した。 「綾と如月を引き離して欲しい。如月が綾に近づけないように。」 「・・・引き離すという事は如月を倒すか封印するということになりますけどそれでいいんですか。」 「あぁ、頼む。俺の妖力では如月には勝てない。」 ここで依頼の内容を初めて知った。ハヤトさんがここを訪れてから一時間半も経っていた。正直長かった・・・。 茜さんと淳さんは返答せずハヤトさんをじっと見つめている。 どうしたんだろう?依頼を引き受けないのかな?俺はちょっと不安になってきた。綾さんを早く助けないと! 業を煮やしたのかハヤトさんが切り出してきた。 「依頼を引き受けてくれるよな?頼むよ!このままだと綾が如月の餌食になってしまう!」 「本当はあなたが綾さんに事情を説明して如月に近づかないように説得した方が一番いい気がします。」 茜さんが言い聞かせるような強い眼差しでハヤトさんに言った。 「そんなこと出来るはずがないじゃないか!!それが出来ればとっくにそうしている!!」 「なぜ出来ないんです?」 「綾は生まれて初めて勇気を出したんだぞ。今友達を作ろうと懸命に努力しているんだ。それなのにやっと出来た友達が実は自分を殺そうとしているなんて知ったら綾はどれほど傷つくか!そんなのショックがでかすぎるだろう!?それが原因でまた自信をなくしてしまうかもしれない。また内に籠ってしまってもう二度と他人と関わりたくないと思うかもしれない。いや、きっとそうなる。だから話せるはずがないだろ!」 ハヤトさんは必死だった。必死で説得する。その姿は愛する女性を思いやる一途な男、それ以外の何ものでもなかった。始めはただのナンパ野郎かと思ったが俺の間違いだった。 すみません、ハヤトさん。心の中で謝ります。 「分かりました。この依頼お引きうけします。」 茜さんが了解した。ハヤトさんは安堵のため息をついた。 俺も安心した。 一刻も早く綾さんを救い出さねば!!
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