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作品名:朝舞探偵事務所〜この蜜柑を君に〜 作者:空と青とリボン

第7回   7
三角関係のもつれってやつでやばいことにならなければいいけど・・・。何やら不吉な予感。
「綾さんは如月さんのことをどう思っているのでしょう。あなたから見て如月さんとは単なる友達に見えますか。それともそれ以上の感情を持っているように見えますか。」
茜さんの問いにハヤトさんは暫く考え込むそぶり見せていたが、やがて
「ただの友達だろう。そりゃあそうだ。綾の性格じゃ友達になるのが精いっぱいだろう。あの女、自分に自信がないにも程がある。」
ハヤトさんは忌々しげに答えた。
ここで俺は違和感を感じた。彼女ではないにしても好きな女にこういう物言いするか?
それに先ほどまで片思いかのように寂しそうな表情をしていたのに今は一転してキレかけている。どうもこのハヤトさんという人の人物像が分からない。
ハヤトさんはまだ腹の虫が収まらないのか綾さんについてベラベラしゃべり続けた。
「あんたらなら驚かないだろうからこの際言っちゃうけど。綾は半妖怪なんだ。母親が妖怪、父親が人間。その間に生まれた半妖怪の綾はそのことをコンプレックスに思っているのか人間との間に一線引いているんだ。だから人間とは仲良くなれない、友達が出来ない。そのくせ如月と俺は同じ妖怪なのにあいつとは親しくして俺とは距離を置いている。あいつは最低な奴なのに綾はそれを分かってない。」
「待ってください。もしかして如月さんって・・・。」
俺はハヤトさんの言葉の一部分に気になるところを見つけ聞いてみたが。
「妖怪だが何か?」
ハヤトさんは何をいまさらという風に憮然として答えた。
ショーーーック!!妖怪が半妖怪に恋して、その半妖怪は別の妖怪と良い仲になって妖怪が三角関係でもつれている。どんだけ世の中妖怪多いんだよ。妖怪だらけじゃね?というか俺もひょっとして妖怪なんじゃないか。自分の体を見て半信半疑になる俺。
しかし茜さんと淳さんはたいして驚かない。まぁ見慣れているだろうからな、妖怪とか妖怪とか妖怪とか。しかしまさかオール妖怪の恋愛相談を持ち込まれるとは思わなかったなぁ。俺は何を言っていいか分からず途方に暮れた。
「妖怪が自分の身の上に悩むことも確かにあります。そのせいで自分に自信が持てなくて他者との関係を上手く構築出来ない人も中にはいるでしょう。自分に自信が持てなくて相手の懐に飛び込むのを恐れている。でも綾さんはそんな自分を変えたくて友達を作ろう、他者と関わっていこうと努力をしている最中ですよね。それをあなたが咎めるのはおかしいと思いますよ。友達なら尚更です。」
茜さんが説得を続ける。
「友達ならまず何より優先させるべきことがあるでしょう。それは綾さんを温かく見守ること。他人と関わりながら生きていきたいと綾さんが望むならそれはあなたにとっても望むべきことじゃないのですか。それともいつまでも自分に自信がなく内向きな綾さんでいいと思っているのですか。今のあなたはただ自分以外の者と綾さんが仲良くすることを許せないだけに見えますよ。」
「・・・・。」
思うところがあるのか押し黙ってしまったハヤトさん。伯父さんはそっと近づきハヤトさんの肩に手を置いた。
「まぁ、後から来たのに追いこされるのは辛いよな。綾さんは如月という奴より先にあんたと仲良くしていたのに、あんたも期待していただろうに後から来た如月さんに、とんびに油揚げ攫われるとはな・・・。でも世の中にはそんなことは腐るほどある。それは妖怪も人間も関係ない。この世に生を受けたすべての者に課せられた試練、それが恋というものだ。」
伯父は、何も言うな、俺は分かっているという風に首を横に振りながら諭している。が。
「後から来たのにってなんだ?俺と綾が出会ったのは一年前だ。如月と綾が出会ったのは三年前だ。それなのに何をしたり顔で語っているんだ、あんた。」
ハヤトは軽蔑したかのように伯父を見て言ってのけた。
呆気にとられる俺たち。いやいやなんだこれ。この自己中満載の懐かしい感じ。なんか嫌な予感が脳裏をよぎる。ちらつくあの影。
「えっ、でもさっきあなたが自分の方が先に綾さんと親しくなっていたのにと言っていたじゃないですか?」
「綾と如月は確かに俺より先に出会っていたが二人は友達でさえなかったからな。綾と親しくなれたのは俺の方が先だ。」
「それってあなたがそう思っているだけという可能性もありますよね。あなたの場合、だいぶ主観が入っているようですし。」
茜さんはきっぱり言った。しかしハヤトさんは納得していないようだ。
「俺の主観だと?あんな男より俺の方が良いに決まっているだろう。綾はそれが分かっていないだけだ。」
「・・・。」
ハヤトさん以外のここにいる全員がハヤトさんの身勝手さに辟易し始めた。
「今はまだ俺は彼氏じゃない、でも必ず俺の女にしてみせる。綾は俺の愛を受け止める自信がないだけだ。自信が出てきたらきっと俺の告白を受け入れる。だから先に口出ししているだけだ」
なんだろうな、この自信家っぷり。やっぱりあれを思い出す。思い出したくない、あれ。宇宙人的なあれ。なんだか嫌味を言ってやりたくなったぞ。
「随分自信たっぷりなんですね。どこからその自信がくるのか不思議ですよ。モテない僕はお手本にしたいぐらいです。でも僕じゃ力不足かな、あははは。というか何度告白しても断られるはずですよ。綾さん他に好きな人がいるんだから。」
「だから如月は綾の恋人じゃないと言っているだろう!!あんな最低な男が恋人であってはならないんだ!!」
「如月さんを最低な奴と言っていますけどあなたが如月さんの何を知っているんですか。嫉妬しているだけでしょ!」
茜さんがキツイ口調で叱った。
するととたんにハヤトさんの様子が変わった。
ハヤトさんは今度は消え入りそうな弱弱しい声で反論し始める。苦悩に満ちた表情で頭を抱えて。


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