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作品名:朝舞探偵事務所〜この蜜柑を君に〜 作者:空と青とリボン

最終回   37
 岐阜駅に着いた。駅ビルの中にショッピング街があり買い物客で賑わっている。
思えばここでしたことは失踪事件を解決し二人の妖怪の恋を見届けたこと。なかなか濃厚な四日間ではなかったろうか。
「しかし、伯父さんも粋な事思いつきましたね。見直しましたよ。」
「昔からよく言うだろう。亀の甲より年の功って。どうだ、一段と私を尊敬しただろう。」
伯父がえへんと自慢げに言うから
「まぁちょっとだけね。」と返してやった。
「ちょっとだけかよ。」
伯父は不満げだ。本当は尊敬しているけど照れくさいから言ってやらない。
「さてと。事件は無事解決したことだし。これから社員旅行に行きましょう!!」
茜さんが目を輝かせ生き生きと出発宣言をした。
「「待ってました!」」
俺と淳さんが拍手喝采。
「社員旅行は良いんだが、どこへ行きたいんだ?行きたいところあるんだろう?まさか今から海外旅行とか言うんじゃないだろうな。」
伯父が尋ねた。伯父さん、伯父さん、いくらなんでもそれはない。第一パスポート持参してきてないでしょ。茜さんはにっこり微笑み
「伊勢神宮をお参りして、それから富士山に行きましょう!」
「富士山!?おいおい、いきなり登山するのか。それは私の体力がついていかんぞ。」
伯父さんが焦っている。
「登山は出来ないわよ。その準備はしてこなかったし。でも富士山の山麓を見て回るだけでも十分楽しめるのよ。もちろん来年の社員旅行は準備を整えて富士山登頂だけど。」
茜さん、来年の社員旅行の行先もう決めているんですね。しかも社員旅行で富士山登山をチョイスするなんて渋すぎます。普通、カニ食べ放題とかじゃないんですかね。
「伊勢神宮といえば今年は式年遷宮だね。」
淳さんが思い出したように答えた。
「そう、だから益々行きたくて。私は毎年お宮参りしているけど皆で行きたかったのよ。」
「あぁ、伊勢神宮が式年遷宮というのは僕も聞いたことあります。テレビで見ました。」
「太郎がそんなこと知っているなんて意外だな。お前本当に太郎か?たぬきが化けているんじゃないだろうな。」
「化けてませんよ。それにテレビで見たと言ったじゃないですか。本屋でもそれ関係の本が置いてあるの見かけたし。」
そう、平成二十五年の今年、伊勢神宮は式年遷宮を迎えた。遷宮というのは端的に言うと神様のお引越し。伊勢神宮の式年遷宮は二十年に一度、新しく建てられた正殿にご神体を遷すことだそうだ。今年がその二十年目に当たる。
「それにしても茜さん、伊勢神宮に富士山って日本屈指のパワースポットじゃないですか。それ以上パワーつけてどうするんですか。もしかして妖怪界を制圧して女帝に君臨するつもりですか。」
「失礼ね。洗濯よ、心の洗濯。日頃いろんなものを見ているからたまにはリフレッシュしたいのよ。楽しみだわ。あ、それと所長、前もって言っておきますけど、伊勢神宮では個人的なお願いことはしないで下さいよ。大きなことを祈るんです。大金持ちになれますようにとか、キャバクラのお姉ちゃんにモテますようにとかそんな煩悩の塊みたいなお願いごとは駄目ですよ。神様に日頃の感謝を述べ、日本の、世界の平和を祈るんです。いいですか。」
茜さんがお宮参りについて指南したが、伯父は聞いているのかいないのか、よそ見をしている。何をガン見しているかと視線の先を辿ればモデルのような綺麗なお姉さんが颯爽と歩いていた。
はぁ〜。俺たちは一斉にため息をついた。


 新幹線に乗り込み、名古屋駅へ。そこから特急に乗って三時間ほどで宇治山田に到着した。
今日はもう遅いからとお宮参りは明日にしてホテルに飛び込み宿泊。
翌日、朝もや立ち込める早朝から外宮をお参りし、バスに乗り内宮へ。ここが内宮かと感服させられた。お参り。神聖で厳かな大気が満ちている神宮で謙虚な気持ちで佇んでいると、なるほど心が洗われるようだった。

「さすがに神宮はすごいパワースポットねぇ・・・。」
参拝を済ませた後、おかげ横丁を歩いている時、茜さんが呟いた。
「そうだね・・・。」
淳さんも感心したように同意する。俺も荘厳なパワーを感じた。
「僕もなんだかパワーをもらった気がします。心洗われました。伯父さんは?」
「赤福はどこだ?赤福餅食べないとな。」
「伯父さん・・・。」
伯父さんはどこにいてもいつなんどきでも伯父さんだった。

 俺たちは再び名古屋駅に行き、そこからまた新幹線。浜松駅で乗り継いで静岡駅を経由し高速バスに乗ったりともう強行スケジュール。週刊誌漫画家も真っ青な予定だんご詰め状態。体力限界。もらったパワーがどんどん消費されていく。俺もうヨレヨレ。座りっぱなしだからさすがにお尻も痛くなってくる。
それなのに茜さんも淳さんもすこぶる元気。体力底なし。歩くユンケルか?タモリもびっくり。
伯父さんはというと相変わらずの旅のおとも、蜜柑を頬張っている。蜜柑がガソリンなのだろう。いっそ蜜柑になってみたらどうだろうか。ここまで来るとなれそうな気がする。
そういえばもうすぐ富士山が見えてくるはずなんだけど。
あ・・・見えた!!
「見て下さい!富士山ですよ!!」
それまで疲れていたくせに子供のようにはしゃぐ俺。恥ずかしいけどやっぱり生の富士山を見るとテンション超上がる!
富士山は雄大で繊細で美しくそしてなにより力強い。世界有数の霊峰とはこれ真。見る者全てを魅了する。
あ、世界文化遺産登録おめでとうございます。
美しき山がゴミに埋もれたりしないように皆で頑張りたいです。
って俺なに言っているんだ。
でもやっぱり大切にしたい。
「さぁ!ここから歩くわよ!」
茜さんが勢いよく席から立ち上がった。
・・・歩くんすか?伯父さんの顔が引きっつっている。茜さん、タフ過ぎだよ。
俺の人生初の社員旅行は歩け歩け運動だった。
だけどすごい楽しい!!
こんなに楽しいのは信頼できる仲間と一緒にいるからだな。
事務所に帰ったらまた仕事が待っている。依頼者が早く解決しろと順番待ちしている。
帰った途端にてんてこ舞いだろう。あっちこっちに狩り出されるのは目に見えている。
でもそれでもやっぱり楽しい。
明日がくるのが楽しみだ。

朝舞探偵事務所から当分抜け出せそうにない。
でもこれは俺の嬉しい悲鳴なんだ。
そしてこの嬉しい悲鳴は一生続くんだ。



                         おわり


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