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作品名:朝舞探偵事務所〜この蜜柑を君に〜 作者:空と青とリボン

第35回   35
俺は今日の疲れを癒すべくシャワーを浴び、すぐにベッドに潜った。ホテルのシーツは真っ白で俺の心の汚れも落としてくれる気がした。代わりにさきほどの惨劇を思い出す。
あぁ、無情。by ハヤト。
俺は身震いがして布団を頭から被った。
「こら太郎!いい若者が零時前に布団に入ってどうする。」
伯父が俺の布団をはぎながら言った。俺ははがれされた布団をひったくりもう一度布団に潜る。
「今日は疲れたんですよ。伯父さんは還暦近いのになんでそんなに元気なんですか。」
「いつもは11時には布団に入るがな。今日はなかなか眠れんのだ。まぁあんなの見せられればな。」
伯父さんでもそんなことあるんだ。伯父さんも人の子なんだなと気づかされ妙に感心した。
俺と伯父は同じ部屋に泊まり、淳さんと茜さんはそれぞれに個室だ。俺も個室にして欲しかったが伯父の「節約だ!」の一言で俺は伯父と同室になった。あんなに稼いでいるのに伯父さんはこういうところでケチるからな。
「太郎、飲みに行くぞ!!」
伯父が張りきってまた俺の布団をはいだ。
「一人で行ってきてくださいよ。僕は今日は人生について考えたいナイーブな日なんです!」
またしても伯父から布団を取り返しぎゅっと潜った。
「なんのこっちゃ。」
伯父は呆れたように首をかしげると一人で真夜中のネオン街に消えて行く。
「伯父さんは元気だな・・・。」
布団の中で俺は一人で呟いた。


 翌朝、俺はすっきりとした気持ちで目が覚めた。昨夜のことは悪夢として記憶の片隅に葬ることにした。
隣のベッドを見るといつの間にか戻ってきた伯父がいびきをかいて寝ている。伯父は15年前に奥さんを病気で亡くしてからずっと独り身。子供もいないから俺を子供のようにかわいがってくれている。本当は寂しい時もあるんだろうな・・・。
俺は伯父を起こさないようにそっと部屋から出た。ラウンジに向かう。ラウンジでテレビをみさせてもらおうと思ったからだ。失踪事件がどうなったのか知りたい。
ラウンジに行くと先客がいた。もう八時過ぎているから当たり前なんだけど。ちなみにいつもの八時といえば出勤途中なんだけどね。
「あ、淳さん。おはようございます。」
淳さんを見つけ挨拶する。
「おはよう、太郎君。昨夜はぐっすり眠れたかい?」
「なかなか寝付けませんでした。」
「女の怖さを見せつけられたからな。太郎君にとってはなかなかの地獄絵図だったろう。」
淳さんは悪戯っぽい笑顔で言った。
「からかわないで下さいよ。」
「悪い悪い。それより失踪事件のことやっているぞ。」
淳さんは明るく笑うとテレビを見るように促した。
ラウンジには大きなテレビがあって誰でも見ることが出来る。周りの宿泊客も食い入るようにテレビを見ている。
『岐阜県で起きていた失踪事件は昨夜事態が急展開しました。失踪していた五人の女性たちは全員自分の自宅に戻りました。衰弱も怪我もなく無事です。ただいま警察署で事情を聞かれていますが、今の時点で警察関係者から入ってくる情報では五人の被害者には失踪していた時の記憶がなく、どこでどうしていたのかも分からないそうです。当初、世間では自らの意志で失踪したのではとささやかれたこともありますがこの女性たちが示し合せて失踪したということも考えづらく、やはり第三者が関わっているのだと思われます。専門家の意見では監禁中、何かしらの薬物を投与されていたか、あるいは催眠術などがかけられていて記憶がないのではないかという意見もあります。』
警察署の前で記者が報道している様子が映し出されている。次にスタジオのMCが声を掛けた。どうやら中継しているようだ。
『安達記者、五人の女性に監禁あるいは軟禁されていた時の記憶がないと言っていましたが、失踪した時の記憶はどうなんでしょう?』
『はい。失踪した時のことも思い出せないそうです。ただ五人が口を揃えて言うのは自分の意志で消えたわけではない。失踪するつもりはなかったとのことです。このことから五人の女性はやはり何かしらの事件に巻き込まれていたのではないかと警察は推測しているようです。』
『世間では神隠し、妖怪の仕業ではないかと噂する人がいますが。』
MCが真面目な顔で記者に質問した。するとそれを聞いた記者はくすっと笑い
『そうかもしれません。』
『ありがとうございます。』
『はい。』
テレビの画面はスタジオに切り替わりコメンテーターがあぁでもない、こうでもないと討論を重ねている。世間を騒がせた事件はこうしてひとまずの決着を見せた。
真相を知っているのは俺たち朝舞探偵とハヤト一家だけ。ハヤトがこの先この件で罰を受けるのか受けないのかはあの怖―いお母さんしだいだろうな。
「ハヤトはどうなるんでしょうね。」
「さぁね。でもしばらくはきついおしおきが待っているんじゃないか、あの母親容赦なさそうだったから。」
淳さんはそう言うと愉快そうに笑った。そして俺は如月さんを思い出した。
「如月さんに謝らないといけませんね。一瞬でも疑ってしまった。」
「そうだな。」
淳さんも頷いた。そこで俺は昨夜から疑問に思っていたことを尋ねてみることにした。
「ところでなぜ茜さんはハヤトの両親の居場所を知っていたんですか?電話番号も知っていたみたいだし。」
「あぁ、そのことなら僕も茜ちゃんに聞いてみたけれど企業秘密だと言って教えてくれなかった。まぁおそらく戸田さんのつてを使って調べたんだろう。なんせ戸田さんはこの国のトップ機関に属しているからね、情報諜報部にも繋がっているだろうし裏社会にも顔が利くだろうし。」
「そうですね。」
使えるものはなんでも使う茜さんの将来が末恐ろしい。


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