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作品名:朝舞探偵事務所〜この蜜柑を君に〜 作者:空と青とリボン

第34回   34
「まぁまぁ、お母さん落ち着いて。浮気は男の甲斐性と言いますし。」
馬鹿!伯父さん余計なことを言うなよ!こっちに矛先向かうだろ!
しかし時すでに遅し。
矛先はこっちに向かった。
母親の動きがピタリと止まった。そしてカクカクと音を立てながら顔がこちらを向く。その目は据わっている。こっちを睨んでいるですけど?俺の膝が笑っている。ははは・・・・。次の瞬間。
ボボボボッ。
何かが起こった。伯父さんの近くの絨毯が一瞬で燃え上がりあっという間に鎮火した。
あり得ない。いきなり着火、自然に鎮火。これはお母さんの仕業だ。恐怖のあまり伯父さんただいま凝固中。多分、というか絶対ちびっている。ここ数日で何回ちびっているんだ。
「母親は火を操るのか。」
淳さんが呑気に言った。そんな呑気な言っている場合じゃないでしょ!
「浮気は男の甲斐性?今そう言ったわよね?」
お母さんは背中にゴゴゴゴという擬音をひきつれてこっちにやってくる。
いやぁ〜こっちに来ないでぇ!
俺の心の叫びむなしくお母さんは俺たちの前で立ち止まった。
「言ったわよね?」
迫力満点の奥さんのドアップ。
「い、言ってません。」
俺は目を泳がせて答えた。伯父は恐怖で魂抜けているから俺が答えるしかない。
「男はすぐに浮気は男の甲斐性というけどその陰で女房がどれだけ泣いているか分かる?」
「す、すみません。」
俺は謝るしか出来ない。
「分かる?」
お母さんは今度は伯父の前で尋ねた。
「す、す、すみません。」
伯父が泣きそうになって答えた。伯父がかわいそうになってきたがちょっと面白いのでもう少しこのまま見てよう。
すると旦那さんがすかさずフォローしてくれた。
「でもお前だって人のこと言えないだろう。お前も昔若いツバメ囲っていたんだし。」
「だまらっしゃい!!」
「はい!」
旦那さんは奥さんの一喝で縮こまってしまった。俺と伯父も縮こまる。それにしても旦那さんは完全に奥さんの尻に敷かれているな。
「あなたと同じにしないで。あなたは若い女囲うのに妖術を使っていたけど私は妖術なんて使わなかったわ。もっともそんな遠隔術なんて持ち合わせてないけど。私は私の女の魅力で男を虜にしたのよ。」
「そっちの方が悪いじゃないか!」
旦那さんが強気に反論した。
「どこがよ。」
「いやだって・・・お前自身の魅力で誘惑したなんて駄目に決まっているだろう・・・。そんなの・・・。」
「なにが言いたいのよ!」
「俺に悪いと思わないのかよ・・・。なんで他の男を誘惑するんだよ・・・。」
旦那さんがぶつぶつモゴモゴ文句言っている。
あぁそうか、なんやかんや言っても旦那さんは奥さんを愛しているんだな。
奥さんはそんな旦那さんの言いたいことを察したのか照れくさそうに目を逸らした。
「私はあなたと違って見境なく異性を誘ったわけじゃないわよ。私は彼女がいないかわいそうな男だけを狙ったのよ。まぁ、イケメンというのは第一条件だったけど。私は彼女を泣かせないという最低限の配慮はしたわ。」
配慮なのか、それ?というか父親も母親もハーレム経験者とかどんなハレンチ家庭だよ。この親にしてこの子ありじゃないか、なんてことは口が裂けても言えない。
「あ、それなら俺も。」
突然ハヤトが手を挙げた。
あんたいたの?存在忘れていたわ。
「俺も彼氏がいない女だけに声かけてる。」
ハヤトは自慢げに言った。父親が感心したように聞き返す。
「お?そうなのか?よく彼氏がいないって分かるな。」
「一目見ていないって分かるさ。男が欲しいって飢えてるオーラが半端ないし。女として枯れてるって感じ。だからかわいそうに思って声をかけてあげているのに、ナンパな男は嫌いなのぉってえり好みしやがって。こっちはボランティアでやってあげているのにさ。」
「・・・あの、ハヤトさん。もうその辺にしておいた方がいいと思いますよ。」
俺は恐る恐る忠告してあげた。
「なんで?」
不思議がるハヤトに俺は目で茜さんを見るように促した。茜さんのこめかみに青筋が立っている。
なのにハヤトは俺の忠告を無視して
「姫だの女神だの歯の浮くようなセリフを言わなければならないこっちの身にもなれって。」
はい、ハヤトさん、地雷踏みました。
ピシッ。
空間にひびが入った音がした。
「なんだ?ポルターガイストか?」
ハヤトが辺りを見回し呑気なことを言っている。
「お母様、息子さんに反撃許していただけます?」
茜さんの低い、こわーい声がこだまする。
「好きなだけやってちょうだい。」
母親はニヤリと笑った。
ゴゴゴゴゴ・・・・。地鳴りがする。
「あ、茜ちゃん?ど、どうしたのかな?そ、そんな怖い顔して。かわいい顔が台無しだよ?」
ハヤトはびびりまくって声が上ずっている。
ハヤトの目の前に怒りの修羅が、背中に陽炎を揺らめかせて立っている。しかも二体。
「ちょ・・・じょ・・・冗談だってば!」
焦りまくるハヤト。顔が強張っている。せめてもの救いは人間になっていてヨカッタネ。手加減してもらえるよ。どれくらいの手加減かはしらないけどね。
ぎゃぁああぁぁぁあ・・・・。
ハヤトの悲鳴がこだまする。
エグイ・・・。悲惨。南無阿弥陀仏。
俺も淳さんも伯父もハヤトの父親も思ったのは
『俺じゃなくて良かった・・・』

口は災いの元。女を怒らせたらあかん。


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