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作品名:朝舞探偵事務所〜この蜜柑を君に〜 作者:空と青とリボン

第33回   33
辿り着いた先は普通の一軒家だった。窓に鉄格子も張ってなければ結界も張っていない。ごく普通の家。
ハヤトはドアを開けた。俺たちもそれに続く。廊下は綺麗に掃除されている。だが誰もいない。
「・・・まぁ、妖術が解ければこんなもんだろ。」
自嘲気味にハヤトが言った。その顔がどこか寂しそうなのは気のせいか。
「本当にここにいたんですか?」
念の為に聞いてみた。
「見れば分かるじゃん。」
ハヤトは台所に行って洗いかけのまな板を持ち上げた。鍋の横にはカレーのルーが置いてあって、鍋の中には調理途中の人参やじゃがいもや玉ねぎが入っている。辺りを見渡すと確かに少し前まで人がいた気配がある。そこらじゅうに乱雑に置かれているエプロン。数えると五枚あった。
大きめのテーブルには六個の椅子。テーブルの上には六枚の皿。ご丁寧に六人分のサラダが乗っている。食器棚にも六人分の皿。なんだかシュールだ。薄気味悪いものさえ感じる。
「確かに千鶴さんの霊気が残っているわね。ここにいたのは間違いないわ。」
茜さんの言葉で証明づけられた。
「どうやら妖術が解けて我に返った彼女らが慌ててここから立ち去ったようだな。」
伯父が脱ぎ捨てられたスリッパを見ながら言った。
「これで俺のパラダイスは終わったな。」
天を仰いでハヤトが呟く。そしていきなり両手を胸元で組んで
「俺が帰ると我先に友実や千鶴たちが駆け寄ってきて、お帰りなさいダーリン♪ご飯にする?お風呂にする?それとも私?・・・なに言っているのよ!?私が先よ!ねぇ、ダーリン(はあと)この中で誰を一番愛しているの?教えてダーリン♪・・・っていうのがなくなっちゃったんだな、もう・・・。」
ハヤトが夢心地で女性たちになりきって語っている。
「キモッ!!」
俺はつっこまずにいられなかった。一体どんなハーレム生活送ってたんだよ。
「でもこれからは俺の実力でハーレムカンバックしてみせる!!」
ハヤトが希望に胸を膨らませて宣言している。いや、勘弁してくれ。
「そう簡単にカンバック出来ると思っているの?」
茜さんはそう言うと不敵に笑った。
「なんのことだ。俺は不死鳥だぞ?フェニックスだ。」
茜さん以上に不敵な笑みを浮かべるハヤトだが、その時玄関先からなんとも言えない声が響いてきた。
「ハ ヤ トォォォォォォ〜〜〜〜!!」
地を這うような執念を帯びた恐ろしい声。
何ごとかと身構えた。ハヤトはその声を聞いて瞬時に身を固くた。そして震えながら振り向く。
そこに立っていたのは
「母さん!?」
ハヤトが突然素っ頓狂な声を上げた。
母さん?ハヤトのお母さんか?俺は仁王立ちしている女性を見た。ものすごく、ものすごーく怒っているのが分かる。こめかみにいくつも青筋が立っていた。
ヒィィ〜。ハヤトの母親の般若のような顔に関係ない俺まで思わず飛びのいた。
「なんで母さんがここに!?」
びびりまくりながらハヤトが聞いた。
「母さんだけじゃないわよ?!父さんもよ。」
お母さんは地獄の三丁目のような迫力ある声で脅す。母親の後ろに見え隠れする男性。
はっきり言って、いたの?状態だ。所在なさげにおろおろしている。この人がお父さんか。
「なんで父さんまで!?というかなんでここにイる↑の?」
ハヤトの声がひっくり返った。
「私が連絡したのよ。大事な息子さんの妖気を勝手に封印するのもなんだから一応ご両親に了解とっておいたの。ついでにここに来る時に息子さんのハーレムの場所をメールしておいたわ。つまりここね、ご両親に迎えに来てもらって良かったわね。」
茜さんが実に爽やかに実に明るく言いのけた。
「貴様―――!!」
ハヤトが怒りのままに茜さんに飛びかかろうとした。が、その寸前に
「ハヤト!!!」
「はい!!」
ハヤトは母親の一喝に瞬時に体を凍らせた。
「お前という子はなんていうことを!」
「ご、ごめんなさい!!」
「ごめんなさいじゃない!!」
ゴゴゴゴッ・・・地響きがしてくる。母親は電光石火の早業でハヤトにげんこつを食らわし、よろけたハヤトに恐怖の鉄槌が下った!ハヤトは腰のあたりを母親に踏まれている。
これが妖怪のしつけか。力技だ、恐ろしい。
「人様の娘さんを妖術でかどわかすなんて言語道断!!」
母親はぐりぐりと足をよじる。その度にハヤトの悲鳴が・・・。
「でも母さんも昔やっていただろう!」
ハヤトがせめてもの抵抗を試みた。というか今聞き捨てならないことが・・・母さんもやっていたとはどういうこと?
「若気の至りよ。それも一年でやめたわ。」
「だったら俺も若気の至りだよ!」
「若気の至り言うにはまだ早い!」
「ひえ〜助けて〜。」
ハヤトの悲痛な叫び。ハヤトは今は妖気がないただの人間だからやり過ぎたら死んでしまいそうだ。見かねた父親が助け舟を出した。
「まぁまぁ母さん。ハヤトも反省していることだし。」
気の弱そうな父親の助け舟。それがまさか火に油を注ぐとは。
「なに甘いこと言っているのよ!だいたいあなたがいけないのよ!あなたがそんなんだからハヤトが真似したんだわ!」
「俺のせいだというのか!?」
「そうよ!」
「妖怪が妖術使ってなにが悪い!?」
「開き直るな!!」
おいおい、なんか夫婦げんかの様相を呈してきたぞ。焦る俺と伯父。茜さんと淳さんは物珍しそうに見ている。妖怪の夫婦喧嘩が物珍しいのは分かりますけど。
「お前だって昔若い男ども連れ込んでホーホホホって高笑いしていたじゃないか!」
「あれはあなたが先に若い女たち連れ込んでだらしなく鼻の下を伸ばしていたからよ。目には目をで仕返ししてやっただけよ!!」
「だったらお互い様だ。過去のことは水に流してだな。」
なんとか旦那さんの方が奥さんの怒りをおさめようとしているがそう簡単にはおさまらない。これは過去の浮気をほじくられている旦那とほじくる妻の図だ。完全に奥さんの迫力に旦那さんが押されている。
「水に流せるものですか!あなたのスケベの血がハヤトに流れているのよ。」
「それはお前の育て方が・・・。」
「なんですって!?」
言ってはいけない一言。奥さんの体の周りの空気がゆらゆらと揺れ出した。まるで陽炎のように。見ただけで空気が熱くなっているのが分かる。というかここまでその熱が伝導してきているんですけど。俺の背中に脂汗が流れた。
「茜さん、淳さん、なんかやばくないですか。僕たち退散した方がよくないですか。」
恐る恐る聞くと茜さんは
「もう少し見ていましょうよ。面白そう。」
淳さんは
「将来の結婚生活の参考にさせてもらう。」
二人とも目を輝かせている。駄目だこりゃ。
「大丈夫よ。いざとなったら結界張るから。」
茜さんが気休めに言ってくれたけども。
すると見かねた伯父が突如喧嘩の仲裁に入った。


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