母親と父親はお互いの顔を見合わせた。そして深く頷く。 「その通りです。娘は幼い頃から他の人には見えないものを見、聞こえない音を聞いていました。娘も私どももそのことが他の人にばれないようにしていたのですが・・・。なぜ分かったんですか。」 両親が茜さんを好奇心いっぱいの目で見ている。この人はなんでもお見通しなんだと期待を持てた瞬間かもしれない。事件解決の糸口を茜さんに必死に求めている。 「私もそうですから。」 茜さんが一言。それを聞いた両親は目を皿のように丸くした。 「あぁ、それで・・・。」 両親はまるで娘の旧友を見つけたかのようにやわらかな笑顔を浮かべた。 「それともう一つお聞きしたいがあります。」 「はい、なんでしょう?」 「あなた達ご両親も生まれつき霊感が強かったのですか?もしかして突然強くなったということはありませんか。」 両親は再び驚きの表情をした。そして戸惑いがちに答える。 「実はそうなんです。私も夫も元々霊感はなかったのですが娘が生まれて暫くしたら私どもの霊感が強くなってきてどうしていいのか分からなくて困っていたんです。なぜなのでしょう。」 両親はひた隠ししていた心配の種を言い当てられてすっかり茜さんを信用している。 「ご心配なく。その霊感は何かよからぬものを呼び寄せるような害はありません。それに今の状態をこれからも維持していくと思います。あまりお気になさらずに。」 それを聞いた両親は安堵の眼差しを向け茜さんに歩み寄った。 「どうか娘を・・・!千鶴を探し出して下さい!!お願いします!!」 両親は茜さんの手を握り何度も頭を下げている。 俺は子に対する親の深い思いを見せつけられて鼻の奥がじーんときた。 「最善を尽くします。」 茜さんは力強くその手を握り返した。
俺たちは鈴木邸をあとにした。途中何度も振り返ったがその度に千鶴さんのご両親が俺たちを見守っているのが見えた。どんなに娘の無事の帰宅を願っているのかが痛い程伝わってくる。なんとしても探し出さねば!!最悪の結果なんて絶対ないぞ!!俺は自分に強く言い聞かせた。 「それで、如月さんの作品はあったのかい?」 淳さんが茜さんに聞いた。俺はハッとして茜さんを見る。 「あったわ。でも一つだけ。他のアクセサリーはみんなよその店の物だった。系統からして雑貨店で買うのが好きだったんでしょう。宝石店で買ったようなものはほとんどなかったわ。」 やっぱり如月工房に行ったことあるのか。再び持ち上がってきた疑念を俺は必死で抑える。 「男の気配は?」 「それはどうかしら。でも彼氏に買ってもらったにしてはリーズナブルな感じ。もっともそういうのが好きな彼女の趣味に合わせたということもありえるから判断出来ないわ。」 「そうか。」 「でもそれよりも気になることがあるの。」 「気になること?」 「そう、確信は持てないけど引っ掛かる感じ。」 茜さんは眉を顰めて考え込んでしまった。 真相に近づいているのか、それとも全くかすっていないのか、それが分からないのは歯がゆいが茜さんの言葉に俄然期待が持ててきた。 「で、行先はハヤトさんのところかい?」 「そうよ、よく分かったわね。」 「顔に書いてあるよ。」 淳さんと茜さん、特殊能力者同士で何やら分かりあっている。俺と伯父は蚊帳の外。凡人は辛いよ。 「ハヤトさんの居所分かるかしら。」 「お?私に聞いているのか?依頼者の住所、電話番号、支払能力はいつでもどこでも把握済みだ。」 伯父は自慢げに懐からメモを取り出した。茜さんは早速そのメモを受け取った。糞っ!伯父の方があてにされたのが悔しい。 「ハヤトさんは親と同居しているのかしら?」 茜さんが突然なんの脈絡もないことを言いだすので俺たち男どもは驚き、まじまじと茜さんの顔を覗きこんでしまった。 「何みんなして私の顔をじろじろ見ているのよ。私の顔に何かついている?」 「いや、親との同居を気にするなんて結婚を間近に考えている彼女ぐらいなもんだと思ってさ。」 「まさか!冗談やめてよ。私はじ・・・!」 茜さんは淳さんに反論したかと思うと急に顔を赤らめて黙ってしまった。 「?」 淳さんが不思議そうな顔で茜さんを見ている。 ははーん。俺には分かった、茜さんがなんと言おうとしていたのかを。 それにしても鈍感な淳さんだ。他人のことには敏感なのに、自分のこと、特に恋愛絡みになると鈍感になるのは如月さんだけではないことが分かった今、俺は密かな優越感に満ちている。 茜さんも淳さんも馬鹿だなぁ。どれ、俺がキューピットになってやろうかね。 俺がほくそ笑んでいる間に茜さんは一人でぐんぐん歩いていく。俺たちは慌ててその後を追った。 一方その頃、ハヤトは繁華街の路地裏をもんもんと歩いていた。カラスが店の勝手口から出された生ごみを漁っている。太陽は秋の高い空を悠々と横断中だというのに路地裏はやけに暗くてひんやりとしている。 「ったく!約束が違うじゃねぇかよっ!いつになったら如月を倒すんだよっ!」 ハヤトは面白くなさそうにゴミ袋を蹴った。カラスが慌てて飛び上がる。 その時だ。 「荒れてるねぇ。その苛立を鎮めてあげようか。」 低く枯れた老婆の声がした。
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