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作品名:朝舞探偵事務所〜この蜜柑を君に〜 作者:空と青とリボン

第2回   2
 北関東の某県、その中心部に県庁が所在している。そこから南へ下ること1キロ、八の木商店街がある。活気あふれる商店街。午後になると下校途中の中高生や夕飯の買い物にきた主婦らで賑わう。
その八の木商店街の一角に一際目立つ看板があった。
看板は長時間見ていると目がチカチカしてきそうな真っ黄色な下地。そこに濃い紺色で書かれた『浮気調査 身辺調査 犬猫迷子 迷宮入り事件 怪奇霊現象なんでも承ります』
そしてど真ん中に自己主張が激しい大きな文字で『朝舞探偵事務所』とも書かれてある。
世の中には奇をてらった看板はいくつもある。どれもひと目を引くだろう。しかし実際の中身は普通だったりしょぼかったりするものだがこの朝舞探偵事務所は違った。派手な色合いの看板に負けない凄腕の探偵事務所なのだ。
そして特筆すべきなのはこの探偵事務所はただの探偵事務所ではない。霊や妖怪が関わっているであろう怪奇事件、特殊能力を必要とするダウジングなど摩訶不思議な依頼を得意としている。
この世界には言葉や科学で説明出来ない不可解な事がいくつも転がっているのだ。
ちなみに不倫調査や浮気調査はさほど得意ではなく色恋沙汰なら他の探偵事務所に依頼した方がいいともっぱらの噂。
 看板の下をくぐりドアを開けると中身はごく普通のオフィスだ。四つの机があってそこに四人の探偵が座っている。来客用の皮張りの大きなソファーが室内の真ん中にあり、その向こうに所長の大きな机がある。
所長は机の上に新聞を広げて何やら熱心に読んでいる。所長は眉を顰め
「世の中物騒な事件が相次ぐな。岐阜県の婦女連続失踪事件で5人目の行方不明者だそうだ。」と嘆いた。
「あぁ、それなら今朝のニュースでもやっていました。ここ半年で若い女性ばかり突如行方をくらましているそうですね。それもいなくなった時の状況がなんとも不可解で、これは神隠しなのではと不気味がられていますよ。」
「警察もなんの手がかりも掴めず困惑しているか・・・。太郎、お前おとり捜査してこい。」
「はぁ!?僕は男ですよ?女装しろというんですか?」
「太郎の女装姿ではおとりにならんか。まぁ、魔除けにはなるかもしれん。」
「・・・僕、この頃みんなから伯父さんに顔が似てきたと言われるんです。血がつながっているから仕方ないですけど。僕の女装姿が魔除けになるなら伯父さんの女装姿はおぞましすぎてよからぬものを呼び寄せそうですね、おぞましすぎて。ほら、うんちにハエが寄ってくるみたいに。」
「こら!太郎!ここでは所長と呼びなさい!まったく出来の悪い甥っ子をもったもんだ。」
伯父さん、引っ掛かるところはそこかよ。うんち発言をスルーされた俺の身にもなれ。
あ、自己紹介が遅れました。
俺は朝舞太郎24歳。この朝舞探偵事務所で探偵を始めてから二年になる。
そしてさっき俺に女装しろと言っていたのが俺の父親の兄、つまり伯父だ。伯父の名は朝舞俊次。この朝舞探偵事務所を立ち上げ所長の座に君臨している。凡人なのに所長だ。ちなみに俺も凡人の平探偵だけどね。
実はこの朝舞探偵事務所は二人の優秀な探偵によって繁盛している。その優秀な探偵とはもちろん俺や伯父のことではない。我が朝舞探偵事務所の優秀な人材、それは
轟茜、女性。小柄な体に整った顔立ち。超霊能力者。
片桐淳、男性。長身の上に奇跡のイケメン。超能力者+霊能力者。
朝舞探偵事務所に舞い込んでくる複雑怪奇な依頼はこの二人が解決している。特殊な能力を持ってこの世に生まれてきた二人はそれをいかんなく発揮し次々ととんでも依頼や難解な事件を解決している。
そして残念ながら俺には霊能力も超能力もない。いたって凡人。なのでもっぱら二人の助手に徹している。時に不倫調査(これは大の苦手だ)迷子のペット探し(これはだいぶ得意になってきた)に励んでいる。自分で言うのもなんだけどこの二年でだいぶ探偵らしくなってきたと思う。
こんな凡人がなぜこの朝舞探偵事務所に入社出来たかというと所長である伯父にスカウトされたというだけ。大学卒業間近で就職先も見つからない俺に救いの手を差し伸べてくれた。伯父が言うには「忙しすぎて雑用係が欲しいから」だったが、おかげで俺はこきつかわれている。伯父がもっと働いてくれれば俺も助かるんだけど伯父は「男は黙って見守る」とかなんとかわけの分からない事言ってさぼっている。俺も男なんですけど。
「茜ちゃん、犯人像思いつかないかい?」
伯父さんは岐阜の婦女失踪事件が気になるらしくいきなり茜さんに尋ねた。
「その場へ行って透視してみないとなんとも・・・。プロファイリングなら警察が専門でしょうし。」
「そうか・・・。淳君はどうだい?犯人像つかめそうかい?」
「情報が少なすぎますね。なんの手がかりもない。ニュースでやっていましたけど被害者が消えた場所は分かるのにどこへ行ったか分からない、怪しい人物も防犯カメラに映っていないなんてまるで神隠しにあったみたいだと言われてますよ。断片的にでも情報があれば推測も出来るんですが。」
「淳君でも駄目か。これは残念だが迷宮入りかもしれんな。」
「僕に聞かないんですか?」
俺も探偵の端くれ、だてに二年ここで修業してきたわけではない。
「太郎に聞いてどうする。聞いたところで時間の無駄だろう。」
「そんなの聞いてみないと分からないじゃないですか。」
「犯人は誰だ。」
「分かりません。」
はい、お約束ですね。



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