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作品名:朝舞探偵事務所〜この蜜柑を君に〜 作者:空と青とリボン

第17回   17
俺たちは町の交番に立ち寄り『如月工房』の場所を聞く。地図を広げ親切に教えてくれたお巡りさんに礼を言って、いざ、出陣!!
賑やかな表通りから路地に入ってすぐに如月工房はあった。小さな店。そしてどこにでもあるような質素な店。小さなショーウインドに真鍮で出来た数々のアクセサリーが並んでいる。派手さはないが作者のこだわりが垣間見える作り。
ぬくもりを感じさせる木で出来た店の扉には「OPEN」と書かれている札がかかっていた。
俺は唾をのみこんだ。唾がのどを通る音がやけに大きく聞こえる。
茜さんが呟く。
「これは相当強い妖気を持っているわね。想像以上だわ。」
それを聞いて鳥肌が立った。強い妖力がドア越しでも感じ取れるらしい。茜さんの一言でびびった伯父が踵を返して帰ろうとするから俺は慌てて伯父の服を掴んでやった。
「今さら船から降りるなんて許さへんでぇ〜。」
恨めしげに脅したら伯父は観念したのか渋々従う。
「こんにちは。」
茜さんを先頭に店に入った。
お客さんらしい女性が数人いた。あれやこれや商品を手に取りながら実に楽しげだ。これかわいいーあれもかわいいーときゃっきゃっ騒いでいる。
すると店の奥から一人の男性が出てきた。作品を作っていたのだろう、ジーパンの生地で出来た頑丈そうなエプロンをしている。かなり汚れている。それさえも芸術家の勲章。
男は俺たちを見てにっこりとほほ笑んだ。実に柔らかく人懐っこい笑顔。この人が如月さんか。俺の体に緊張が走る。
「いらっしゃいませ。」
当たりの柔らかいごく普通の人間に見える。妖怪だという前情報がなければ誰も妖怪だなんて思いもしないだろう。人畜無害というのにふさわしい外見。本当にこの人に裏の顔があるのだろうか?にわかに信じられないな・・・。
「初めまして。私どもは朝舞探偵事務所の者です。」
茜さんは丁寧に挨拶すると名刺を渡した。
「朝舞探偵ってあの朝舞さんですか?」
伯父は如月さんの一言を聞き逃さなかった。刺激される伯父の虚栄心。
「いかにもあの朝舞です。いやぁ参ったなぁ、そんなに有名ですか。まぁ無理もないですな、なんせ朝舞ですから。あははは。」
伯父は実に機嫌よさげ。さっきまであんなに怯えていたのに現金な人だ。
「はい、知っています。なにせ・・・。」
如月さんはそこまで言いかけると他の客がいることを気にしたのか口を噤んだ。
けれどタイミングが良い事に女性客たちは気に入った商品を見つけたらしく
「これくださーい。」
「私はこれがいいな。」
「私も。」
「ありがとうございます。」
如月さんがレジに立っている間もお客さんたちは実にかしましい。女って本当にアクセサリー好きだよなぁと感心した。女性客たちは満足げに店を出て行った。
今、店にいるのは俺たちと如月さんだけ。俺の中に忘れかけていた緊張が走る。
「隠したってもうお分かりでしょうから言いますけど僕は妖怪です。朝舞探偵さんのことは知っていますよ。深刻な霊障を解消したり悪さをする妖怪を封印出来ると聞きました。妖怪仲間の中では有名です。」
「そうでしょう、そうでしょう。」
伯父が機嫌よく相槌を打つ。如月さんはこう言っている間にも凄まじい妖力を漂わせているんだろうな。分からないって幸せだよな、俺も含めて。
茜さんは一歩前に進み出ると
「知っているなら話は早いです。あなたはなかなか強い妖力をお持ちですね。今までいろんな妖怪と対峙してきたけどその中でも上位にはいりますよ。」
「そんなことありませんよ。強い妖力なんて持っていてもなんの役にも立ちません。それよりも物づくりの才能が欲しいですよ。」
如月さんは自嘲気味に笑み、自分の作品を見つめた。
「すごい才能あるじゃないですか。作品を作って自分の店を持つなんてなかなか出来ることではないですよ。」
淳さんが感心して答えた。確かにここにある作品には作者のセンスが溢れている。真鍮で出来たアクセサリー。花びらや動物をデフォルメしていて全体的に丸みを帯びたフォルム。
よく見るとこの作品たちには一つの共通点があることに気づいた。どの作品にも蜜柑がデザインされている。蜜柑をモーチフにしたものがどこかしらに添えられているのだ。花びらの端に添えられた蜜柑。かわいい犬や猫が蜜柑を持っていたりもする。それも皮をむいた蜜柑だったり、まるごと一個の蜜柑だったり。それがミスマッチにならずに逆になんともかわいく不思議な感じ。
なぜ蜜柑?と聞きたくなるけどそこはこだわりなんだろうな、アーティストとしての。
「こちらにはどんな御用で?仕事ですか?それとも観光ですか?」
如月さんが聞いてきた。俺はドキッとした。茜さんも身構える。けれど淳さんは作品の方に興味を持ったのか話題を変えた。
「これはどうやって作るんですか。」
「良かったら作業場ご覧になりますか?奥が作業場なんです。」
如月さんはにっこり微笑みながら奥へ案内してくれた。
「ちょっと淳君!」
茜さんは小声で淳さんを咎めるが
「まぁいいじゃないか。ちょっと興味あるんだ、こういうこと。」
「もう・・・。」
茜さんは興味津々の淳さんに仕方なくついていった。俺は淳さんの気持ちがなんとなく分かる。俺も作業場見たいなと内心思っていたからさ。男って子供の頃からものづくりに興味あるんだよなぁ、プラモデルとか日曜大工とかさ。もちろん女の人の中にも、ものづくりに興味がある人はたくさんいて、最近ではホームセンターの手作りコーナーは若い女性で賑わっていると聞いたけど。


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