でも茜さんや茜さんのお母さん、お兄さん、妹さんに霊感があるってことはお父さんはどうなんだろう。 「お父さんには霊感ないんですか?」 「もともと母の家系が霊感が強いのよ。だから母のお腹から生まれた私たち兄弟が霊感も受け継いだみたい。」 「ということはおばあちゃんも霊感があるんですか?」 「82歳現役の元気なおばあちゃんよ。さすがに髪は真っ白だけど背筋はピンとしている。たまに妖怪が身の上相談にくるの。人間をからかうのが好きないたずら好きの妖怪にはお説教するし。妖怪からは銀髪先生と言われて慕われているの。金八先生をもじったのね。」 そう説明して茜さんは思いだし笑いした。 妖怪が身の上相談にくるってどんな家庭だよ、凄すぎ。 淳さんはふと自分の時計を見て呟いた。 「それにしてもハヤトさん遅いな。」 「そういえば・・・。もしかしてなにかあったんですかね。」 すっかりハヤトさんの存在を忘れていたけどそういえばハヤトさんまだ戻ってこない。 「まさか。あんなにいい加減な性格でも妖怪の端くれよ?それに妖気はたいしたことがないといっても私たちから見ればのことで、巷にあふれる下等妖怪よりはずっと強いわ。どうにかなる玉じゃないでしょ。」 「もしかして一人で如月さんに勝負を挑みにいったとかはないですかね。」 チャラいけどハヤトさんも男だ、十分にありえると思うんだ。 「あんなへたれにそんなこと出来るわけないわよ。出来るならとっくにやっているって。まぁ、女を三股して三番目の女に後ろから刺されるとかならありえそうだけど。」 「茜さん、ハヤトさん嫌いなんですね。」 「別に。まぁ好きじゃないけどね。」 そうですか。その割にはハヤトさんには手厳しい気がするけどな。 その時伯父の携帯電話が鳴った。伯父のことだからさぞかし奇天烈な着信音だろうと想像する人もいるだろうけど『ピピピピ』という至って普通の着信音。こういうところだけ昭和生まれの人なんだよな。 「もしもし。あ、ハヤトさんですか。はい、はい、あ、そうですか。分かりました。」 ハヤトさんからか。電話の向こうの声は焦っている。 伯父は電話を切った後、早速内容を報告した。 「どうやらハヤトの常連客がここで死んでやると店で喚いてるそうだ。だから今日は合流できそうにないから如月と会うのは明日にしてくれ、だそうだ。」 さすがに伯父さんもうんざりしてるらしい、口調が投げやりだ。 しかし常連客が死んでやるって店で暴れるってハヤトさん何をしたんだよ・・・。 これはさすがにげんなりするぞ。茜さんのこめかみに青筋が立っているのは見ないでおこう。ちなみにハヤトさんが伯父の電話番号を知っているのはお互いの報告をする為だ。 ハヤトさんは始めは茜さんの電話番号をゲットしようとしてしつこく茜さんに食い下がっていたけど茜さんのひと睨みでおとなしくなった。それに伯父は一応、朝舞探偵事務所の責任者だしな。 「まったく。早くこの件片づけて皆で社員旅行したかったのに!」 茜さんが怒りながら地団駄踏んだ。 「「社員旅行?」」 伯父と俺のすっとんきょうな声が重なった。 そういえば淳さんもそんなようなこと言ってたな。 「そう、この件が片付いたら帰りはみんなでどこかに寄り道しようと計画しているのよ。」 茜さんは機嫌を取り戻したらしく楽しそうに話した。 「そんなこと聞いてないぞ。」 「所長に言っても面倒くさいの一言で終わってしまうでしょ。だから淳君と相談して皆でどこかに出掛ける機会があったらついでに社員旅行しようと企んでいたの。」 言われて気づいた。そういえば俺がここに入社してから社員旅行って行ってないな。といっても入社してからまだ二年しか経っていないけど。 でも社員旅行って憧れるなぁ。面接落ちまくった就活の時からどこかの企業に入社出来たら絶対社員旅行行きたいと思っていた。場所が変われば芽生えるだろうオフィスラブに期待を膨らませていたんだ。 しかし所詮は現実は夢幻。女性社員は茜さんしかいない。茜さんは美人だし仕事できるしとても素晴らしい女性だ。性格も良い、怖いけど。それに強い、怖いくらい強い。年上。奥が見えない。もしかして魔女かもしれない。よって俺の手には負えない。以上。 でも行けるなら行ってみたいぞ、社員旅行!! 「僕も行きたいです。妖怪とか幽霊とか忘れて皆でいろんなところ観光してみたいです。たくさん写真撮ったり美味しいもの食べたりして。」 想像しだしたら楽しくて仕方ない。あれもやりたいこれもやりたい。 「太郎。写真を撮るのはいいが、もれなくすべての写真が心霊写真になるけどいいのか?そばに天下の茜ちゃんがいるんだぞ。お前は半透明の見知らぬ誰かと仲良く肩を組んで写真に写るのさ。幽霊の友達たくさん出来て良かったな。」 伯父が意地悪く言ってきた。したり顔なのが悔しい。くそーっ。痛い所突いてきたぞ。 「でもまぁたまには社員旅行もいいか。茜ちゃんも淳君も日頃一生懸命働いてくれているからたまには息抜きしないとな。」 伯父さんが社員旅行に賛成した。茜さんと淳さんは顔を見合わせて喜んでいる。 やったー!!初の社員旅行だ!!浮かれる俺は遠足前の小学生に見えたことだろう。 「で、どこに行きたいんだ?候補地はあるのか?」 伯父が興味深そうに聞いた。まんざらではないんだな。というか嬉しそうだ。 「行きたいところはもう決まっているの。それは先のお楽しみ〜。」 茜さんが茶目っ気いっぱいに答えた。 初の社員旅行に夢を膨らませる俺たち。ハヤトさんはすっかり記憶の彼方に追いやられた。 「伯父さん、ハヤトさんに電話して如月さんの居場所聞いて下さいよ。とっとと仕事終えて社員旅行に行きましょう。」 俺は伯父に催促する。 「おう。」 伯父は了解し、早速懐の携帯電話を取り出そうとする。しかしそれを淳さんが止めた。そしてにこやかに告白する。 「如月の居場所なら知っていますよ。」 「えっ?」 淳さんの突然の告白に皆の視線が一斉に淳さんに集まる。 「ハヤトさんから聞きましたから。」 「いつのまに。」 「新幹線の中です。席が隣でしたからね。話のついでに如月の居場所を聞き出しました。」 「でかした淳君!!」 それで早速俺たちは如月さんに会いに行くことにした。 さてと、社員旅行に行くぞ!! 当初と目的が変わったような気がしたが別に気にしない気にしない。 「それで如月さんはどこにいるんですか?」 「如月工房」 「工房?」 「雑貨店だよ。如月さんは自分の店を持っているみたいですよ。ネックレスや指輪などのアクセサリーを作ってそれを店で販売している。所謂若き芸術家ってやつ。」 「へぇ〜、すごいですね。自分の店を持っているなんて。」 「さっそく如月さんに会いに行きましょう。」 「はい。」 いよいよ如月さんと対決だ。どんな人、いや妖怪なんだろう。表向きは良い人。でも裏の顔は冷酷。対峙するのは怖いだけど、逃げるわけにはいかない。 時は満ちた!!
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