今度は淳さんが一歩前に歩み出た。 「自分が他とは違う事に悩む気持ちは分かります。僕も茜さんもそうだった。幼い頃はなぜ自分だけ他の者には見えないものが見えて他の者に出来ないことが出来るのか分からなくて悩みました。今でこそそれを仕事にしていますが幼い頃はそれを利用してやろうなんて思いつかなかった。ただひたすら他と違う事に悩んでいた。周りの人間も僕を排除しようと動く。人間は自分が理解できないものは排除しようとしますから。僕は石を投げられました。その度に僕は逃げました。逃げ続けた。でもある日ふと思ったんです。このまま逃げ続けたらそのうち逃げこむ場所がなくなってしまうんじゃないかって。」 「淳さん・・・。」 俺は淳さんの意外な過去に驚いた。だって淳さんはいつも明るく笑っているから。だからきっと子供の頃から特殊能力のことも明るく話して笑っていたのかと思っていた。 そうか・・・淳さんも茜さんも暗い過去があったのか。知らなかった。 「ずっと逃げ続けてやがて逃げる場所がなくなったその時、僕はどうする?死ぬのか?それは嫌だと思った。他と違うというのは個性だ。なんで個性あるぐらいのことで死ななければならないんだと思ったんです。そこで僕は開き直ったんです。自分の個性に自信を持つことにしたんです。そしたら楽になった。そして石を投げてくる奴に言ってやったんだ。 たかだか相手にちょっとした個性があるぐらいの理由で必死で石を投げてくる君はいつかくだらないことしていたなって後悔する日がくるよって。そいつは何言っているんだという顔をしていました。それから僕は逃げずにそこに居座った。ずっとそこに居座っていたらそこが僕の居場所になったんです。」 「それでどうなったんですか。いじめられなくなったんですか。」 俺は思わず聞いてしまった。ちょっとデリカシーを欠いたかなと聞いた後で後悔した。 でも淳さんはおおらかな笑顔で 「人間なんて勝手なものでね。石を投げていた連中は今はこの能力を頼りにして寄ってくるよ。助けてなんてあげたくないけどそいつらがあの時はごめんと謝るもんだから助けてあげてもいいかなと思っているところ。今はこの個性に感謝しているよ。君が半妖怪ということもただの個性ですよ。」 「淳君の言う通り。要は考え方しだいよ。他人がどう思うかではないの。自分がどう思うか、どうしたいかが大切なのよ。」 と茜さん。でも綾さんは悲しげに戸惑いながら 「ありがとう・・・そんなこと言ってくれる人たちに初めて出会えた。でもごめんなさい。私は人間ではないから・・・。」 「関係ないわ!人間だろうが妖怪だろうが同じ。あなたが半妖怪ということを本気で恥じているのか恥じてないかそれだけよ。」 「・・・。」 「あなたはそんなに自分が恥ずかしい?」 茜さんの問いに綾さんは暫く考え込んだ。 そして涙ぐみながら思いっきり首を横に振った。 それを見て茜さんと淳さんがほっとした顔している。伯父さんもだ。俺だって嬉しい。 「だったらもっと自信を持って。」 「はい。」 消えいりそうな小さな声。でもしっかりと自分の意志を持った声だった。 そこへさっきの女性が一人でやってきた。秀美だ。秀美は機嫌の悪さを隠そうとしない。 「ちょっといつまで私を待たせる気!?お腹がすいて仕方ないんだけど?」 なんだこいつ!?俺たちもいるのにそんなのまるでお構いなしだ。 「ちょっとあんたなんだよ!」 俺はすかさず秀美に食ってかかる。 「なによ!あんた誰よ。」 「誰って綾さんの友達だよ!」 「ごめんなさい。今渡すから。」 ケンカを始めそうな俺と秀美の間に慌てて割って入った綾さんはハムカツサンドを取り出した。それを見た途端秀美は怒りだした。 「なによこれ!私はサンドウイッチ買ってきてといったじゃないの!もう一度買いなおしてきて!」 綾さんは茫然としている。 プツーン!俺は切れた。茜さんたちも怒っている。 「お前がハムカツ買ってこいと言ったんだろ!」 「さっきからあんたなんなのよ!?そんなこと言ってないわよ!緑川さん、私はサンドウイッチ買ってきてと言ったわよね!」 まるで脅し。綾さんは困り果てている。俺は綾さんが何と言うのか息を飲んで見守った。茜さんたちもじっと綾さんを見守っている。 すると綾さんは覚悟を決めた眼差しで 「秀美さんはハムカツ買ってきてと確かに言いました。聞き間違いではありません。」 言い切った。うっしゃあー!!俺は心の中でガッツポーズをした。茜さんも淳さんも伯父さんもとても嬉しそうだ。 あ、でもこれで秀美は逆切れするだろうなと思った。どうせ憤慨しているだろうと思って嫌々秀美の顔を見たら。意外だった。秀美は心なしか喜んでいるように見える。あれ・・・? 「なによ!パシリの分際で!」 秀美は捨て台詞を残し去って行った。条件反射で俺は秀美を追う。 「待てよ!」 「何よ!」 秀美は振り返った。
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