「アンさんが自販機に変身したってそれはなぜですか。なぜそういういきさつになったんですか?そういうプレイですか?」 おもわず聞いてしまった。聞いた後で後悔した。プレイなんて言ったら宇宙人が怒る。 でも幸いなことに宇宙人はプレイをスルーしてくれた。助かった。 「アンが突然自販機になると言ったのだ。地球人の役に立ちたいと言ってな。アンはそういう優しい女性だ。」 えぇと・・・つっこみどころがたくさんあり過ぎてどこからつっこんでいいのか分からない。自動販売機になる!!って海賊王に俺はなる!!じゃあるまいしそんなことって実際にあるのか?百歩譲ってあるとして自販機になることがなぜ地球人の役に立つことになるんだ? 分からないことだらけでこんがらがっている俺。隣にいる茜さんも困惑している。戸田さんも園山さんもトムも困っているようだ。 「順番を追って話してもらえないでしょうか。僕ら地球人はあまり頭が良くないんで。」 とりあえずへりくだって説明を促した。だってこの宇宙人なんか得体が知れないんだもの。 宇宙人はしたでに出た俺を見て気をよくしたのか実に機嫌良さそうに話し出した。 「いいだろう。僕とアンが一緒に地球に観光しに来たのだ。四日前のことだ。」 「観光・・・。地球はそんなことになっているのですか?」 俺は振り返って戸田さんを問いつめた。観光って手軽すぎだろう。いつの間にそんなことになっていたんだ。隠ぺいが酷過ぎる。戸田さんは視線を逸らした。ごまかしたな。 トムを見たらトムにいたっては軽く口笛吹いているし。 「僕とアンは地球から遥か110億光年彼方にあるトンダ星に住んでいる。トンダは地球なんてまったくお話にならないくらいの科学的発展、文化的円熟を迎えている。地球人は一生かかってもトンダ星に来られないが、僕たちトンダ星人はコンビニに立ち寄るぐらいの手軽さで地球に来られるぞ。」 はいはい、そうですか。それはすごいですね。というかこいつかなり地球をコケしているな、気に食わん。 「今トンダは大の地球ブームなんだ。地球の漫画、映画、音楽が一大ブームメントを起こしている。ほら、洗練された都会の生活に疲れた都会人が田舎暮らしに憧れるというやつだよ。」 なんかいちいち癇に障る野郎だな。 「アンも大の地球フリークになってしまってね。地球大好き、温泉行ってみたい!!と言うようになってしまった。僕はやめとけと言ったんだがアンは地球を生で見てみたいと言ってきかなくてね。」 アンさん、どんな人か知らないけどいい人だな。 「アンは地球に遊びに行ってくると一言残して一人で地球に旅立ってしまった。」 俺はここで少しひっかかった。さっきアンさんと一緒に観光に来たと言っていたよな。 そしてそれは茜さんも同じようで 「二人で観光に来たのではないのですか?」 「ばかな!!僕は地球なんてど田舎に興味はない!!」 「ならなぜ来たのですか?」 茜さんは少々ムッとしながら尋ねた。 「アンが地球に行ったのでそれを追いかけてきただけだ。アンは何度も僕についてくるなと言っていたがな。僕はアンを一人で地球に行かせるのが心配でついてきた。」 「つまりアンはあなたがついてくるのを心底嫌がっていたのにあなたは無理矢理ついてきたと。」 茜さんは容赦がない。相変わらず怖いもの知らずは健在だ。 「そうだ。当然だろう?恋人同士なんだから。」 「話を続けて下さい。」 間髪入れずに戸田さんが促した。戸田さんもこいつのこと気に入らないようだ。 「うむ。僕たちは地球に到着してデートを楽しんだ。そして意外と面白い星だということに気が付いた。だって地球人は歩いているんだぞ?」 「歩いていますがそれがなにか?」 「普通歩かないだろう?瞬間移動するだろう?そうすれば行きたいところに一瞬で行ける。それなのに地球人はとことこと地面を歩いている。まるで虫のようにな!この原始人ぶりに驚いたよ!実に面白い!!」 宇宙人が笑っている。愉快そうに笑っている。俺たちの殺気なんて気が付かないで。 こいつ×××てやりたい。 「あ、でも地球の漫画はトンダにいる時から好きだったな。週刊少年ジャンプは毎週読んでいるぞ。」 「えっ」 一転、俺はこいつに俄然興味が湧いてきた。ジャンプを読んでいるとは!! 「ジャンプを立ち読みしにわざわざ毎週日本に来ているんですか?」 俺はワクワクしながら聞いた。 「まさか。毎週ジャンプを買いに来ているのは僕の友人のシャンクスだ。僕はそれを借りて読んでいるだけだ。ちなみに仲間内で回し読みしているぞ。」 うんうん。立ち読みだろうが借り読みだろうが回し読みだろうがなんでもいいよ。 「なんの作品が好きなんですか?」 「ちょっと太郎ちゃん!何聞いているのよ。」 「いいじゃないですか。宇宙人の趣味嗜好を知るいい機会です。」 茜さんが咎めてきたけど関係ない。個人的に興味がある。 「ワンピースと暗殺教室だな。」 おぉー。こいつとは気が合いそうだ。というかこいつ実はいい奴なんじゃね? 妙に親近感が湧いてきて俺は思わず握手を求めそうになった。実際手を差し出しかけたところで 「しかし驚いた。まさかデンデー星人の存在を地球人が知っているとは。」 「はい?」 俺の手が止まった。 「暗殺教室のころせんせいはデンデー星人をモデルにしているんだろう?」 いや、このトンダ星人はなにを言っているんだ? 「・・・ころせんせいのモデルを知っているのか・・・。」 戸田さんが緊張した趣で聞いてきた。俺はハッとして振り返った。トムも園山さんも緊張している。 「知っているぞ。月を破壊し地球も破壊できるほどの生物、デンデー星人のことだろう。なにをいまさら。」 「デンデー星人の居所を知っているのか!」 トムの厳しい声で一気に緊張が高まる。雲行きがおかしくなってきた。おいおい、一体なんの話だ。デンデー星人とはなんだ。ころせんせいは実在しているのか? 「デンデー星人はどこにいる!?もう地球に来ているのか!?」 トムの切羽詰まった様子が俺を震え上がらせた。尋常じゃないことが起こっているというか。一体何が起ころうとしているのか、未知の話を聞かされ頭の中で緊急避難警報が鳴り響く。 「・・・なにをそんなに必死になっているのだ。それを知ったところで地球人にはどうすることも出来ないだろう。その時が来たら地球人が力を合わせてそれに立ち向かうしかない。国境も宗教も肌の色も超えて団結して戦う以外に道はないはずだ。」 「・・・。」 押し黙るトムたち。現実を叩きつけられた。 この宇宙人は侮れない。地球の事情を良く知っている。小馬鹿にした態度も何もかもお見通しだからこそ出来るのであろう。地球人は地球を失くしたら生きていけない。 「いつか戦う時のために味方は減らさないでおいた方がいいぞ。地球人の味方は地球人だろう。仲間割れなどしている場合ではないはずだ。」 今、宇宙人が地球人に忠告している。俺は・・・その時が来たら戦えるのか?この地球の為に・・・。いや!俺は戦う!! 「せめてデンデー星人のヒントだけでもくれないかしら、戦う時の為に。」 茜さんが切実に頼み込んだ。顔は青ざめている。さきほどまでの宇宙人に対する態度が嘘のようだ。 「そうだな。デンデー星人はもう地球に来てるぞ。」 「!!」 「だが安心しろ。デンデー星人は地球を破壊したりしない。」 「なぜそう言い切れる!?」 「地球みたいな発展途上星を壊すことには興味ないらしい。デンデーはプライドがいやに高くてな、格下はまったく相手にしない。自分より強いものに闘志を燃やすタイプだ。そういう意味では地球よりもトンダ星の方がデンデー星人の襲撃にあう可能性が高い。しかし僕たちトンダの方がデンデーよりもあらゆる面で優れているからとりあえず心配ないだろう。まぁ所詮僕たちの敵ではないな。地球はデンデー星人にとってアウトオブ眼中だからお前らが気に病むことはない。とりあえず自分たちで瞬間移動出来るぐらいになってから心配するがよい。とことこと虫のように健気に歩いているうちは安全だろう。」 なんだろう、この釈然としない気持ち。俄然デンデー星人を応援したくなってきたんだが。 「発展途上で悪かったわね。」 茜さんが憮然として吐き捨てた。 「今までいろんな宇宙人と会ってきたけどあなたのように自分の星を自慢しまくる宇宙人は初めてですよ。実に貴重な経験をさせてもらった。」 トムが嫌味たっぷりに言った。でかしたトム!! しかし宇宙人は飄々と 「うむ。貴重な経験出来て良かったな。」 「・・・。」 トムが全身脱力している。嫌味が通用しない宇宙人だったとは。いや、そんな気がしていたけど。 「話が脱線しすぎています。我々が知りたいのは自販機を狙った理由です。話を戻しましょう。」 園山さんがようやく口を開いた。随分我慢していた事だろう。 「それもそうだな。今の所あんたの恋人が地球大好きということしか分かっていない。」 トムがさらりと話題を元の線路に戻してくれたおかげで宇宙人はお国自慢をいったんやめて話す気になったようだ。 「アンと地球を堪能している時にアンが言ったのだ。もうここからは一人で行動したいと。」 うん?アンさんとは恋人同士なんだよな?でも旅行先で揉めて一人になりたいなんていうことはよくあることだし、だから成田離婚という言葉も流行ったわけで。 「まぁ、そう言われても僕は取り合わなかったが。」 「取り合わなかったんですか?」 茜さんがちょっと不機嫌そうに聞き返した。同じ女としてアンさんの気持ちが分かるところもあるのだろう。 「取り合ってどうする。アンは照れ屋なんだ。アンは思っていることと反対のことを口にしてしまう。本当は僕のことが好きなくせに嫌いだといって避けたり、僕が近寄れば逃げたり、抱きしめようとしたら露骨に嫌そうにな顔をして離れるのも照れているからなんだぞ。」 「・・・・。」 なんかこの先は聞かない方が良くないか?聞いたらきっと後悔する。
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