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作品名:朝舞探偵事務所 〜自販機がない!〜 作者:空と青とリボン

第6回   6
『青森県八戸市○○町××−×』
「なんですか、これ。」
「ここに宇宙人が現れます。ここで待ち伏せしていれば宇宙人がやってくるはずです。」
戸田さんが俺の問いに真面目に答えた。しかし俺にはもう何がなんだか分からない。なぜ宇宙人がここに現れると思っているんだ?その根拠は?宇宙人にでも聞いたのかよ。それとも戸田さんが宇宙人か?俺は警戒して少し後ずさりした。そんな俺の警戒心に気づいたのか戸田さんはふっと笑い
「君がなにを考えているかおおよそ分かりますよ。でも残念ながら僕は宇宙人ではありません。」
「じゃあなぜここに宇宙人が現れるなんて断言出来るんです?宇宙人に直接聞いたとかじゃない限り分かるはずがない。あなたが宇宙人というなら分かりますけど。」
しかし自分で言うのもなんだけどはたからこの会話を聞いたならこれはもうコントだよな。もう宇宙人ありきでことが進んでいる。
「音声付き自動販売機はもうここしかもう残っていないのです。だからここで待ち伏せしていればいいのです。宇宙人が最後の一台を奪取しにくるところを待ち伏せすれば。」
いやいや待て待て。俺は今の今までポーラを探して外を歩き回っていたんだ、この糞暑い炎天下でな。しかし自販機を所どころで見かけた。いくら数千台と自販機が盗まれようとそれ以上の数の自販機が日本にはあるのだ。むろんそれらは無事だ、今のところは・・・だけどな。
「そこしか残っていないと戸田さんは言いましたけど帰ってくる途中でいくつも自販機みかけましたけど?」
「あぁ、それらは音声機能付きの自販機ではないからですよ。それらは盗まれていません。狙われているのは音声機能付きの自販機だけです。そして残すところ青森のここ一台だけなのです。」
「あぁそういえばニュースでも音声機能付きの自販機だけが行方不明になっていると言ってましたね。」
「はい。だからあなたたちに今から青森に行ってもらいたいのです。」
戸田さんは当たり前のように答えた。だがここで俺は引っ掛かった。そもそもなんでど素人の俺たちが行かなければならないのだ。それこそ警察なり自衛隊なりが出た方がいいんじゃないのか。俺たちに宇宙人を捕らえるノウハウなんてないぞ。まぁ警察にも自衛隊にもそんなノウハウなんてないだろうけど、でもど素人の俺たちよりはずっと使えるだろう。それにもっと専門的な分野の方たちがいるんじゃないか。もっとふさわしい・・・。
「あの・・・一つ聞いていいですか。」
「どうぞ。」
戸田さんに促され俺は疑問に思ったことを素直に聞いてみる事にした。
「どうして僕たちなんです?もっとふさわしい人たちがいるはずです。NASAの人とかJAXAの人とかFBIの人とか。こんな尋常でない込み入った事件は専門家に任せるべきだと思うんです。宇宙のことなんだからNASAやJAXAに任せるのが一番ですよ。僕たちには宇宙人は荷が重すぎます。」
戸田さんは俺の率直な意見に真摯に耳を傾けていた。戸田さんにとってもごもっともな意見なんだろう。しかしその割に出た返事は随分なもので。
「NASAやJAXAやFBIでは駄目なんですよ。」
「なぜですか。」
「NASAやJAXAやFBIは玄人だからです。」
「玄人?」
「はい。もちろん僕たちも朝舞さんと同じように専門家に依頼しましたよ。しかし宇宙人は非常に警戒心が強くしかも頭がきれる。未確認物体に関する知識を持ったNASAやJAXA、訓練されたFBI、KGBが漂わす空気を敏感に感じ取りその者たちが隠れている場所には宇宙人は決して現れない。もしかして宇宙人は地球人の脳の中を覗くことができるのかもしれません。」
「どうしてそんなことが分かるんです?知り合いの宇宙人にでも聞いたんですか。」
俺は少々意地悪く聞き返してやった。だってさも聞いてきたようなことを言うからさ。なのに戸田さんは平然と
「はい。」
おいおい、言ってのけたよ。今「はい」て言ったよね?それって宇宙人に聞いたってこと?
「どこの宇宙人に聞いたというんですか。」
「さてね。」
ごまかしやがった。戸田さんは明後日の方を向いてしまった。俺は焦って園山さんを見たが園山さんは慌てて俺から視線をそむけた。こいつら何か隠しているな。思いつくのは
「もしかしてエリア51ですか?」
俺は言ってはいけないような、でも言ってみたい言葉を口にしてみた。それで戸田さんの反応を探ろうと目を覗きこむが戸田さんはスルーしやがった。
「それであなたたちに依頼しようということになったのです。あなたたちは宇宙に関しては素人でありいわば凡人です。訓練された人間でもなければそれらに関しての知識があるわけでもない。だからこそ都合がいいのです。宇宙人を油断させるという意味で。」
俺のエリア51発言を無視した上に凡人扱いときたもんだ。随分失礼な奴。俺は反論しようと戸田さんに一歩詰め寄るが戸田さんは俺のことなどまるではなから相手にしていないみたいだ。その証拠に茜さんと向き合った時だけはとても深刻な顔になる。
「でもただの凡人にこんな重大な任務を任せられない。そこで特別な能力のある轟さんに仕事を任せたいのです。」
うっ・・・。どこまでも俺を馬鹿にしている。えぇえぇ俺はどうせ凡人ですよ。霊能力も超能力もありませんからっ。戸田さんは茜さんの隣でふて腐れている俺に気づくと、とってつけたかのように
「もちろん太郎さんにも仕事を依頼しているんですよ。宇宙人を油断させるための凡人が必要ですからね。」
全然フォローになっていないんですけど。というかさっきから凡人凡人ってなんなんだよ。
そこに突然伯父が割って入ってきた。機嫌を損ねた俺の姿なんて眼中にないようだ。伯父の目に浮かぶ円マーク。
「それで成功報酬はおいくらですか。」
ご機嫌な伯父の声。これだから守銭奴は。呆れかえる俺をよそに話は進み
「そちらの言い値で構いませんよ。遠慮なさらずにどうぞ。なにせ国家の一大事ですから。」
園山さんがにこっと微笑みながら答えた。さっそく伯父の頭の中でそろばんがはじき出される。
「ではこれが青森行きの新幹線の切符です。今すぐ向かってください。」
そう言って戸田さんが切符を差し出してきた。
「今から行って間に合いますかね。」
茜さんが半信半疑で尋ねる。
「それは分かりません。ですがこれは賭けです。間に合えばよし。間に合わなかったらその時はその時、別の方法を考えます。」
戸田さんはキリッとした態度で答えた。その目は鋭く計算に満ちている。なるほど内閣執務室室長の目だ。


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