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作品名:朝舞探偵事務所 〜自販機がない!〜 作者:空と青とリボン

第5回   5
「そんな・・・。」
俺は途方に暮れた。普通ならそんなことありえない!!とはっきりと言い切るところだが俺は一年この事務所で働いてきた。目の前で茜さんと淳さんの仕事ぶりを見てきた。
そして俺は学んだのだ。思い知らされたのだ。この世にはおおよそ人間の想像している以上のことがあるのだ。
霊なんていない、超能力者も霊能力者もいないという固定観念は事務所で働きだしてから一か月で木端微塵に消し飛んだ。この世には霊も妖怪も摩訶不思議なことも超能力もある。あるのだ。
すると伯父が固く唇を噛んだままおもむろにテレビをつけた。画面に大きく映し出されたのは戸田さんが言っていた事件だった。
女子アナウンサーがこの非常事態を切羽詰まった声で伝えている。すべての始まりは昨日の午後だった。この日本という国、北は北海道、南は九州、沖縄までありとあらゆる地域の自動販売機が盗難の憂き目に合っているのだ。その数、数千台。これはもう常軌を逸している。
そしてこの前代未聞の自動販売機盗難事件がもっとも常軌を逸しているのはこの盗難がたった一日で行われたということだ。これはもう世界史に残る複雑怪奇な大事件だ。数千台の自動販売機が何者かの手によってごく短期間のうちに行方知れずになっている。
この世紀の謎は謎を呼んで日本中の至る所であらゆる人々が話題にしている。いや、日本だけではない。世界中がこの大事件を報道していてちょうど今映し出されている画面ではアメリカのCNNで放送された様子が伝えられている。そういえば今朝見たワイドショーではBBCもこの大事件を伝えていると言っていた。
「どこの超能力者の仕業だよ・・・。」
俺が忌々しげに呟いた。そうだ、さっきまでポーラ探しで町中歩き回っていたけどどこへ行ってもこの話題で持ちきりだった。信号待ちの間、通りを行く人たち、コンビニの店員、宅配のお兄さん、男も女も年寄りも子供もこの話題を口にしていない者はいなかった。そしてみんなの顔に色濃く刻まれていた不安げな表情。
それはそうだ。だって何者の犯行かが分からない。目的は自販機の小銭目当てだというのは分かるがこの平和な国、日本でこのような常軌を逸した盗難がたった一日のうちに起こるなんて不安になるのも仕方がない。まさしく前代未聞の大事件なのだ。
「いや、これはどうも超能力者の仕業ではないようです。」
突然園山さんが言い切った。
「え・・・。」
俺は唖然として園山さんの顔を見つめた。
「園山の言う通りです。これは超能力者の仕業ではありません。どんなに巨大な超能力持っていたとしてもこんな大胆は犯行がこんな短期間で実行できるはずがありません。」
言われてみればそうだ。数で勝負ということで例え数百という能力者を揃えても日本中の自動販売機を跡形もなく消え去るなんてことが出来るはずがない。
俺はテレビの画面に見入った。コメンテーターが神妙な顔をして「窃盗団の仕業でしょうか」と言っているけどどうみてもその顔は半信半疑。
「ではいったい誰の仕業だと?」
伯父がじれったそうに聞き返した。この事務所に依頼に来たからにはそういうことなんだろうと察しがつくが。もしかして妖怪か・・・。幽霊にはまず無理だ。
「ひょっとして妖怪の仕業だと考えていますか?」
俺は恐る恐る尋ねてみた。
しかしその問いに戸田さんも園山さんもなかなか答えようとしない。なにか言いだしにくそうだ。すると茜さんが
「これは妖怪の仕業でもないわ。今朝自販機があったはずの場所をいくつか回ってみたけれど妖気の名残は全く残ってなかった。妖怪の仕業だったとしたらなんらかの痕跡か妖気が僅かでも残っているはずだもの。」
と明快に答えた。戸田さんたちは深く頷いた。それでも伯父は納得がいかないようで
「今回の自動販売機盗難事件が国家の存亡とどう結び付くんです?確かに世界中で大騒ぎのニュースになっていますし自販機のメーカー会社は大打撃でしょう。自販機に入っていたお金も一緒に盗まれたということだから経済的にも億単位の大損失になるはず。しかしそれで国家の存亡というのはちょっと大げさのような・・・。あなたたちは一体誰が犯人だと思っているわけですか?それを答えて貰わなければこの依頼を受けるわけにはいきません。だってそうでしょう?まさしく雲を掴むような話なんですから。」
畳みかけるように言った。答える気がないのならどうぞお引き取り下さいと言わんばかりに伯父は扉の方を見やって促す。
それを見て戸田さんが一つ小さなため息をついた。どうやら覚悟を決めたようだ。
「実はう・・・。」
「宇宙人の仕業ですね。」
戸田さんの声に重なるようにして突然、茜さんの声が重なった。
戸田さんと園山さんはハッとして茜さんを見る。
「え・・・?え・・・?」
俺は何がなんだか分からず茜さんを見た。今、宇宙人って言った?宇宙人?空耳アワーとかじゃないよね?うちゅーじんという名の妖怪か何か?
そんな馬鹿な・・・と思いつつ戸田さんを見たら戸田さんも園山さんも真剣な表情でたちすくんでいる。
そんな冗談でしょう?なんで宇宙人が自動販売機なんて盗むのさ。それこそありえないって。まだ妖怪がいたずら半分でやったという方が納得出来る。俺は半笑いしながら
「宇宙人がそんなことするわけないでしょうが。あぁ、ちなみに僕は宇宙人はいると思っていますから。えぇ、茜さんと淳さんのおかげですっかり洗脳されましたよ。この世界に確かに空想上の人物は存在しますね。龍もネッシーも雪男も狼男もいるでしょう。それなら宇宙人もいるはず。この広い宇宙の中で地球人しかしないとは考えにくいですから。でも宇宙人が自販機泥棒なんてそんなばかげたことするわけないじゃないですか。」
俺はまくしたてた。あまりに突拍子のないことを言いだす茜さんとそれに反論しようとしない戸田さんと園山さんを小馬鹿にする気満々で手のひらをひらひらさせながら。欧米人がよくやる感じのジャスチャーだ。AHAHAHAHA。イッツハブラックジョーク!!
それなのに戸田さんと園山さんの神妙な表情は解けず、茜さんもいたって真剣。これじゃ俺一人が浮いてしまうじゃないか。俺は同意が欲しくて伯父を見たが伯父は茜さんのいう事を微塵たりとも疑っていない様子で腕組みをして何か考え込んでいる。いやいやここはそんなリアクションとるところじゃないでしょ。もっと陽気に、なーんてね、てへぺろとかって笑うところでしょうが。
「やだなー伯父さんまで宇宙人説を本気にしちゃって。宇宙人が日本の硬貨を欲しがって自販機荒らすと思う?それってどんなコレクターよ。まだ妖怪の仕業の方が真実味あるって。」
俺一人で矢継ぎ早に否定してみせるが茜さんも伯父さんもまったく乗ってこない。なんか俺すべりまくっていない?
「太郎君。君が宇宙人の仕業だとは思えない気持ちは分かるが実は宇宙人の仕業であるという証拠があるんだ。」
戸田さんが重い口を開いた。俺はぎょっとして戸田さんを見る。
「これは国家機密でありマスコミにも伏せるよう箝口令を強いている情報なんだが・・・。」
その言葉で俺の体の中でなにかが一気に引いていった。血の気ともいうのだろうか。突然後頭部を殴られた気分だ。すると戸田さんが園山さんに説明するように促した。
「実は自販機が盗まれる時の様子を目撃した者がいます。その者が言うには自販機が陽炎のように揺れだし、目の前でいきなり自販機が消えたというのです。そして跡形もなく綺麗さっぱり自販機だけが消えたのです。そしてその近くに一人の男がいたことも目撃されています。その姿はどことなく人間離れしていてまるで幽霊か宇宙人のようだったよと。それを聞いて我々は念のためにと自販機が元あった場所で放射能の調査を行いました。そこで他よりも微量ですが高い放射能を検出しました。」
そっ・・・そんなことってあるのか!?俺は半信半疑で聞き返す。
「幽霊か宇宙人のような顔した人間の仕業かもしれないじゃないですか。高い放射能を検出したのはたまたまで。自販機のテレポーテーションをやってみたかったとか。」
「轟さん、超能力者に自動販売機のような大きなものを瞬時に消し去ることが出来ると思いますか。」
戸田さんが至極真剣な表情で茜さんに聞いてきた。茜さんは首を横に振った。
「超能力者は確かにこの世界に存在しています。人間の未知の能力を持った者が。未知というぐらいですから誰もが持っている能力かもしれません。ただその能力にまだ気づいていないというだけで。でもどんな能力を使ったとしても物質を瞬時に消し去ることは出来ないと思います。透視や物を動かすサイコキネシス、予知能力は実際にありますが今回の自販機遭難はそれでは説明しきれません。宇宙人クラスの常軌を逸したパワーがあるなら別ですが。」
俺は茜さんの至極真面目な表情を見ているうちにことの状況が飲み込めてきた。ようするにとんでもないことが起こっているということだ。しかしなぜ宇宙人が何のために自動販売機なんて盗む?やはりコアなコレクターか何かか?俺たちがフィギュアを集めるようなものか。はい、俺はワンピースのフィギュア集めています。
「それであなたにこの宇宙人の正体を突き止めて欲しいのです。我々は宇宙人の目的が知りたいのです。」
戸田さんが茜さんの目を真っ直ぐ見つめて頼み込んでいる。どうやら俺は眼中にないようだがそれはそれでありがたい。妙な期待されても困るしな。
「どもどうやって宇宙人の正体を突き止めろというのでしょう・・・。どこに現れるのか分かりません。人間や霊の考えることは分かりますがさすがに宇宙人の思考までは読み取れませんわ。」
茜さんが答えた。茜さんのいう事は至極もっともだ。俺らは地球人だ。地球人の俺らに宇宙人が立ち寄りそうな場所も聞かれても分かるわけがない。
しかし戸田さんはその答えを待っていたかのように懐から一枚の紙を取り出した。そしてそれを俺たちの目の前で広げてみせた。そこに書いてあったのは住所。


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