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作品名:朝舞探偵事務所 〜自販機がない!〜 作者:空と青とリボン

第13回   13
「それで私気づいたの。一緒にいることがいつの間にか当たり前になっていたけど実はそうじゃないんだって。当たり前のことなんてない。こうして一緒にいられることに感謝しなければいけないなって。だからサトラのところに戻ったの。」
「・・・・。」
良い話ふうに言っているけどそれって結局元鞘に戻っただけのことだよね。元鞘に戻る為に日本中の自販機が巻き込まれたわけですか。そうなんですか?神様。
「お二人は仲がいいんですね。羨ましいです。」
他人事のように淳さんが言った。淳さんはアンさんの「自販機になる発言」を知らないから無理もない。だがそれを聞いて目の前のトンダ星人たちはいちゃいちゃとじゃれあい始めた。なるほど、サトラにはアンがお似合いだ。この空気の読めなさはもはやトンダ星人の特徴としか思えない。
「ダーリン。」
「ハニー。」
どこでそんな地球語覚えた。というかあまりに馬鹿馬鹿しくて今の俺はちゃぶ台ひっくりかえしたい心境なんです。止めないでくれますよね?
茜さんの握った拳がぷるぷる震えている。これは茜さんの霊能力の暴走の前兆か。
止めないけどね。
だがさすがに淳さんはやばいと思ったのか話題を変えてきた。
「それはそうとなぜ地球に?」
「観光に来たの。知っている?私たちの星では地球が大ブームなのよ。地球大好き!!だからこの目で見たくてやってきたの。」
実に嬉しそうにアンさんが答えた。子供のように瞳を輝かせているアンさんを見ていると自販機になるという滅茶苦茶な発想も許せる気がしてきた。なにより地球大好きと言ってもらえるのは最高に気分がいい。それは茜さんも同じようで
「地球のどこを観光してきたのですか。」
ほっこりしたような笑顔で尋ねた。
「温泉よ。温泉最高!!もう病みつきになりそう。ニューヨークの自由の女神も見てきたし、パリのエッフェル塔も見たわ。もちろん京都の清水寺からちょっと飛び降りてみたしお舞妓さんと並んで写真も撮って来たわ。」
「たった四日間でそれだけ観光してきたんですか!?」
俺は心底驚いた。瞬間移動が出来るからこそなせる技だろうがそれにしても実にアグレッシブだ。
清水寺から飛び降りるとかちょっとおかしな部分もあったがアンさんがとても幸せそうに話しているからまぁいいや。
「堪能してもらえたようで僕も嬉しいです。」
俺は自然とそんな言葉を口にしていた。
「楽しかったわ。また遊びにくるわ。地球人は皆優しいから。」
アンさんが無邪気な子供のよう答えるからちょっとさみしくなった。そうか・・・帰っちゃうのか。
「帰ってしまうんですね。」
茜さんも寂しそうに呟いた。
「そろそろ戻らないと家族が心配するしね。でもまたすぐに遊びにくるわ。今度は秋葉原に行ってみたい。サトラも行きたいって言ってるもの。」
「そうなんですか。」
俺は意外な言葉に驚いた。サトラさんはアンさんとジャンプにしか興味ないと思っていたから。
「あぁ、ちらっと見かけたんだが地球人が全身黒づくめのあいつの格好して歩いていたんだ。まさか地球人があいつのことを知っているなんてな。実に興味深い。それにワンピースのフィギュアも欲しいしな。」
サトラさん、もしかして全身黒づくめのあいつってスター○ォーズのあのお方のことですか?実在しているんですか?ちなみにそれはコスプレというやつです。ワンピースのフィギュアが欲しいは同意。
「太郎たちに挨拶もしてやったしそろそろ行こうか、アン。」
「えぇ、行きましょう。」
挨拶してやったとか、太郎と呼び捨てにするところといいやっぱりこの宇宙人はかなりのタカビーだな。嫌いじゃないけど。
「じゃあ、さようなら。」
トンダ星人がドアから出て行こうとしたその時。
「あの!!」
俺は声をかけていた。
「なんだ。」
サトラが不思議そうに俺を見る。
「あなたたちの故郷では地球が大ブームと言っていましたけど、これからもブームは続きますか。あの・・・ずっと地球を好きでいてくれますか。」
俺はなんということを聞いているんだ!こんな顔から火が出るような恥ずかしいことを臆面もなく口にするなんて!!俺のバカバカ!!
俺の質問に淳さんも茜さんも驚いた様子。でもすぐに優しい眼差しになって俺を見つめている。そう、それは我が子を見守る保護者の目!あぁ恥ずかしい、穴があったら入りたい!
でも赤面する俺を笑うでもなくアンさんは明るい声で言った。
「もちろんよ。地球、特に日本はブームが去るのが早いらしいけど私たちトンダ星人は一度好きになると長いのよ。千年先も地球ブームは続いていると思うしずっと好きよ。」
アンさんの笑顔、言葉で俺は涙ぐみそうになった。
「地球人は何を案じているのだ。太郎とは実におかしな奴だ。あっ、それとジャンプは合併号が多すぎると集○社に言っておけ。」
サトラが言った。でもそういう苦情なら自分で言って下さい。
俺はなんだかとても嬉しかった。宇宙人に好かれるってこんなに嬉しいものなのか。それもこれも俺が地球大好きだからだな、うん。

そしてトンダ星人、宇宙人たちは自分の故郷へ帰って行った。



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