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作品名:朝舞探偵事務所 〜自販機がない!〜 作者:空と青とリボン

第12回   12
「おまたせー。」
そこに茜さんがやって来た。手には水出しした緑茶。
「おっ、ありがとう。茜さんがいれるお茶は格別上手いんだよな。」
淳さんは美味しそうにお茶を飲み始めた。
「そんなことより淳さん!徳川ってあのとく・・・。」
「そういえばもうすぐ政府の記者会見が始まるわね。」
一人焦る俺をしり目に茜さんはテレビのスイッチを入れた。
画面に映し出されたのは青いカーテンが印象的なあの記者会見室。官房長官がいた。
官房長官の顔色は優れない。それはそうだ、これから世紀の一芝居を打つ。
「えーお集まりいただき誠にありがとうございます。ただいまから一昨日から日本で起こった自動販売機盗難事件の全容を・・・。」
官房長官がここまで言いかけた時だ。どこぞの記者が
「昨夜、盗難に合った自販機が全て元の場所に戻ったということですが。」
「はい、無事に戻りました。」
「無事にではないでしょう!?こんなこと普通ありえない!!!」
一人の記者が口火をきってそこからはもう無秩序の記者会見となった。他の記者も我先にと質問する。その声はどれも怒号だ。普段の政府の記者会見ならまずありえないことだ。
普通の記者会見は質問内容、質問する者が決まっているのに今回は全く違う様相を呈している。それだけ誰もがこの一連の事件に戸惑い恐怖を覚えまた興奮しているのだ。それが分かっているからこそ官房長官もそれを咎めない。
「誰の仕業なんですか!こんなこと人間に出来るわけないじゃないですか!!」
「政府はなにか隠していますよね!?何を企んでいるんですか!?」
「妖怪の仕業という者もいます。宇宙人かもという人も。どうなんですか!?それとも人間の窃盗団だというのですか!?」
矢継ぎ早に記者の質問が飛び交う。
「犯人につきましては把握できております。この犯行はテテッマダ窃盗団によるものでして・・・。」
官房長官は冷や汗を掻きながら説明した。
「テ・・・テテッマダ窃盗団?聞いたことありません。どのような組織ですか!?」
「てて・・・ててっま・・・舌噛むわ!!」
記者がつっこんだ。なんだかもう阿鼻叫喚の記者会見。これが日本中、いや世界中に配信されるのだから官房長官が気の毒でならない。そもそもの原因は宇宙人なのに。
俺はいたたまれなくなった。戸田さんたちの顔が頭に浮かんだからだ。今頃戸田さんたちも頭を抱えながら今後の対応に追われ右往左往しているだろう、まったく人騒がせな宇宙人のせいで。
プチ・・・。
突然テレビの電源が切れた。茜さんのしわざだ。
「政府が記者会見したところで暫くはこの騒動はおさまらないと思うわ。」
「そうだな。前代未聞の大事件だったからな。でも来年の今頃はみんな忘れているだろう。でも忘れる事のすべてが悪いこととは限らないからな。中には忘れた方がいいことがある。」
茜さんと淳さんがしんみりと語りあっている。
「それにしてもテテッマダ窃盗団って政府もやるわね。」
茜さんが意味ありげに微笑みながら言った。
「やるわねって何をですか?」
不思議に思い俺が尋ねれば
「テテッマダ。反対から読むとだまってて。つまりこれは私たちへのメッセージね。」
「あぁ、このことは黙ってろという意味ですか、なるほど。でもそんなことしなくても宇宙人の存在は当たり前のように認識されていくと思うんですけどね。いっそ受け入れて宇宙人と仲良くやっていきたいな。」
俺は思っていたこと、いや、願望を正直に口に出した。宇宙人と仲良くやっていきたい、あのトンダ星人と会って俺はそう思った。
「太郎君は宇宙人に魅入られたか。」
淳さんが愉快そうに笑いながら言った。
「そんなんじゃないですけど。」
俺はからかわれたと思って反論したが本当は本当に魅入られたのかもしれない。
「あら、噂をすれば影ね。」
茜さんが驚いたような口ぶりでドアの方を見た。
「そのようだね。挨拶にでも来たかな?」
淳さんも茜さんに同意した。影って?挨拶って?嫌な予感がする。
そして予感は的中した。
ドアの前に人影。茜さんが「どうぞ中へ。」と促した。そこに現れたのは
「ありえないだろう!!」
俺は思わず絶叫した。だってだってそこに宇宙人、あのトンダ星人がいたから。
「お前たち地球人に会いにきてやったのだ。光栄に思ったらどうなんだ?」
トンダ星人の性格は一夜で変わるものではなかった。
「なんであなたがここにいるのですか!?」
「なんでって別れの挨拶に来たのだ。いや、来てやったのだ。」
いちいち来てやったなんて言いなおさなくていいから。それに別れの挨拶ってなんだ?
焦りまくる俺の目の前にトンダ星人はつかつかと寄ってきた。おや、後ろに女の人がいるぞ。
突然のトンダ星人の訪問に驚愕していっぱいいっぱいになっていたがよく見るとトンダ星人は女の人を連れてきていた。随分と綺麗な女性だ。
「初めまして。アンと申します。」
「初めまして。朝舞太郎です。」
挨拶しながらなにか心に引っかかった。アン・・・アン・・・アン!?
「あなたがアンさん!?」
「はい、アンです。このたびはサトラがご迷惑かけてしまったようで申し訳ありませんでした。」
「い・・・いいえ。」
俺は唖然とした。頭の中がどえらいことになっている。これは夢幻?それにサトラって誰?もしかしてこの宇宙人の名前か?
「初めまして。私は轟茜です。アンさんにお目にかかれるとは思ってもみませんでした。」
茜さんは柔らかな笑みを浮かべアンさんにお辞儀をした。
「ようこそ地球においでくださいました。僕は片桐淳と申します。よろしく。」
淳さんは好奇心いっぱいの顔でトンダ星人に握手を求めている。うん、実にフレンドリー。
伯父はというと驚きのあまり固まっている。顎が外れそうな勢いで口を開けているけどまぁそれは別にいい。
「あ、あ、あのどうしてここに?」
俺は、適応能力が高い茜さんや淳さんと違って動揺丸出しで聞いた。
「戸田からお前たちがここにいると聞いたから来たに決まっているだろう。」
トンダ星人はなにをいまさらという顔で答えたが
「いつの間に戸田さんと旧知の仲みたいになっているんですか?何を企んでいるんですか?」
茜さんが物おじせずに問い詰めた。
「別に何も企んでいないぞ。一期一会を大切にしているだけだ。ちなみにお前たちの名前も聞いたから覚えておいてやる。太郎に茜に淳だな。」
「それはどうも・・・。」
宇宙人に名前を覚えてもらえるのは嬉しいけどなぜ下の名前で覚えるんだ。馴れ馴れしいにも程がある。出会ってまだ二回目だぞ。上から目線だから許されるのか?
いまいち腑に落ちない俺だがやっぱり名前を覚えてもらえるのは嬉しい。
「アンさん。いいんですか?その・・・。」
茜さんはアンさんに近寄り耳元で囁いた。そうだ、それは俺も気になっていた。アンさんがこのサトラとかいうトンダ星人から逃れたくて自販機になるなんてとっさに嘘をついたのがことの始まりだった。そういう意味ではアンさんがこの自販機盗難騒動の元凶でもある。
しかしアンさんは茜さんの疑問に動ずることはなかった。
「あら、心配してくれたの?地球人は優しいわね。でも大丈夫よ。あの時の私はどうかしていたわ。でもサトラのこと嫌いじゃないってやっと気づいたの。」
「「はい?」」
茜さんと俺の声が重なった。このアンさんという人、いきなりなにを言いだすんだ。
「トンダ星にいる時からサトラはずっと私一筋で口説いてきたけど私はそんなサトラが疎ましいと思っていたわ。だから地球にまで追いかけてきた時はサトラのことを心底うざいと思ったし。だけどサトラから逃げたくて嘘をついて離れたのはいいもののそのうちにサトラがいないことが寂しくなってきてしまったの。それに私に会いたいがために日本中の自販機を集めるなんてその情熱に根負けして。」
アンさんはそう言ってサトラさんを見た。その顔は恥じらう乙女のようだ。サトラも照れたように頭を掻いている。俺たちに対するサトラの言動とアンに対してのそれとは180度違う。あまりに違いすぎる態度に大いに違和感ありまくりだ。だらしない程鼻の下伸ばしているサトラなんて見たくなかった。


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