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作品名:空族と発明家ジャノの翼 作者:空と青とリボン

第9回   9
ナーシャの体力はとっくに限界を超えていた。とにかく地上に下り、翼を休ませなくては。人気のない林を見つけその中に下り立った。すぐに木の陰に身を隠し、座り込んで体を休ませる。体力が戻ったらすぐに帰ろう、でもとりあえず今は休もうと気を緩めたその時だ。
ゴソッ。何かがうごめく気配がした。とたんに跳ね上がる脈。ナーシャは驚きながらも音がした方を見るとそこには人影が。ナーシャの心臓がドキンと波打つ。頭の中で痛いくらいに警告音が鳴り響く。
「空族だ!」
突然、人間の叫び声が林に放たれた。ナーシャの体は緊張で固まってしまう。大声を出した人間は容赦なくこちらに向かって走ってくる。人間の男が二人、それもいかつい顔をした男たちがナーシャに迫ってくる。
しまった!ナーシャは心の中で叫んだ。体中を縛っている緊張の糸を無理矢理ひきちぎり駆け出した。体は酷く疲れているが必死で奮い立たせ懸命に逃げる。だが逃げるナーシャを男たちは執拗に追いかけた。
「逃がすな!」
「捕まえろ!」
鬼のような形相でナーシャを追う。ナーシャは飛んで逃げようと試みて翼を広げるが、肝心の飛ぶ体力が残っていない。こんな儚い体力では例え飛んでもすぐに落ちてしまう。もはや走って逃げるだけの体力しか残っていなかった。その体力さえも底をつきかけているが。足が鉛のように重くなり心臓は張り裂けそうだ。もう限界だった。
男たちはナーシャにどんどん追いつきその差をあっという間に詰めてきた。
「もうすぐだ!!」
男が叫ぶ。
もう駄目だ、ナーシャが諦めかけた時だ。いきなり目の前に一人の若者が現れた。若者は驚き目を丸くする。次の瞬間。ナーシャと若者は勢いよくぶつかった。転がるナーシャと若者。
若者はすぐに、いたたたたと言いながらむくりと起き上った。その若者はジャノだった。
ジャノは自分に覆いかぶさっている女性の存在に気づく。次の瞬間、目に飛び込んできたのは美しい栗毛色の髪、白い肌、そして大きな白い翼。ジャノの心に雷のような衝撃が走る。
だが、よく見ると翼や肌が所々青い。ジャノは不思議に思った。一方、女性はハァハァと息を荒くし、起き上る気配がない。
すると、ジャノの前に二人の男が立ちはだかった。ナーシャを追ってきた男たちだ。
「その女をこちらによこせ。」
鬼のような険しい顔でジャノに要求してくる。ジャノは眉をしかめた。男たちはジャノが素直に要求に応じないと見るや否や、なおいっそう怖い顔をして
「初めに空族を見つけたのは俺たちだ。こちらに渡さないとどうなるか分かっているんだろうな!!」と脅迫してきた。それでもジャノはそれに屈しない。そしてナーシャを自分の背中の後ろに隠して男たちを睨めつけた。ジャノの挑戦的な態度に男たちはますます苛立ち殺気をみなぎらせた。


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