嵐のような弾丸がシュンケ達を襲うがシュンケとルシアは弾丸が届かない高い所にとどまっているのでかすり傷さえ負わすことが出来ない。 「クソッ!」 兵士たちは執拗に空族に照準を合わすが弾は一向に空族に当たらなかった。 「撃て!撃て!」 兵士たちの怒号と火薬の匂いが町中に立ち込める。焦った兵士は矢を放つ。しかし銃弾が届かないのに矢が届くわけがない。 「駄目だ、ラジィ。全然空族を撃ち落せない。」 標的を失った矢は大きく弧を描きながら地上に落下する。 「うるさい!とにかく撃ち落せ!!」 ラジィは焦っていた。闇雲に銃を撃ち放つがこれほど無意味な事はない。やけくそになったラジィは 「大砲を用意せよ!」 大胆なことを叫んだ。しかしそう命令された兵士はラジィに冷静に進言する。 「でも空族に対して大砲を使うことは国王もフラン様も禁じています。国王は空族を傷つけずに捕獲しろと命じられております。」 「傷つけずに捕えろなど国王も何を甘いことを言っておられるのだ!いつものことだが腹が立つ!」 ラジィは相当イラついている。ラジィもフラン同様現国王の平和主義には辟易しているのだ。 「しかしフラン様も大砲を使うことには反対しておられます。空族の血肉が粉々に吹き飛んでしまったら食することは出来ませんから。」 ラジィは部下の言葉を聞いて地団駄を踏んで悔しがった。空族の血を手に入れなければ元もこうもない、フランはそれを欲しがっているのだから。 ラジィがどうするべきか悩んでいる所へフランがやってきた。フランの顔を見るなり会釈をするラジィ。 耳をつんざく銃声だけが虚しく響き渡る中、町の人々は耳を塞ぎ家の中で小さく丸まっていた。恐怖で大人も子供も体を震わせている。 その時だ、町の中へジャノが突入してきた。闘志と怒りを全身にみなぎらせその姿はまさしく勇者のいでたち。ジャノは勇敢にも兵士たちの前に立った。兵士たちは上空ばかり気にしているので誰もジャノのことを気に留めない。ジャノは危険を顧みず兵士たちに向かって己の怒りを燃やし進んでいく。ジャノの存在に気づいたフランが詰め寄った。 「貴様何ものだ!空族か!!」 問い詰めながらジャノの背中を見るが翼はない。 「邪魔だ!去れ!」 フランは邪険に追い払うがジャノは一向にその場から動こうしない。そして揺るがない真っ直ぐな目で 「国王に会いたい!国王に見せたいものがある!!」 ジャノは訴えた。だがフランは全く相手にしない。元より轟く銃声でジャノの声がよく聞こえない。するとジャノはもっと大きな声で力の限り叫んだ。 「王に会いたい!!王に見せたいものがある!!王に会わせてください!!」 ジャノの叫びにようやく気づいたフランはこいつ何を言っているんだという侮蔑の目でジャノを見下ろした。しかしジャノは一向に気にせずフランの目を真っ直ぐに見据え訴える。 「僕は人間が空を飛べるようになれる翼を完成させた。その翼を見せたい!!」 人間が空を飛べるようになれる翼?フランは訝しげにジャノを見た。すると何の前触れもなく突然、威厳に満ちた低い声が響く。 「それは一体どのようなものだ。」 王だ。フランは驚き振り向く。他の兵士たちも王の存在に気づき一斉に手を止めた。嘘のように銃声がピタリと止んだ。 「王、ここは危険です。城にお戻りください。」 「フラン、我は空族を傷つけるなとお前に命令したはずだが。」 「し・・・しかし全く傷つけずに捕えるのは至難の業です。相手はすばしっこい上に自由自在に飛べる、それを捕まえるには・・・。」 フランは王の命令を無視し空族に銃を向けたことを咎められ必死で言い訳を試みるが王だとてそんなことは分かっている。言うはたやすい行うは難しだ。 だが同時に敵地に単身で乗り込んでくるほどのつわものなら銃ごときで倒れたりしないことも国王は見抜いていた。つまりフランが自分の命令に従わないこともシュンケたちが銃弾を華麗によけるであろうことも計算の内だ。国王はただ空族と対峙し空族の本質を知りたかった。空族は人間に復讐するつもりがあるのか。人間に仇をなすものなのか。 しかしジャノという思わぬ伏兵が現れ国王は俄然そこに興味を持った。人間が翼を生み出すなんて本当にそんなことは可能なのか。もし可能ならそれに未来を賭けてみたくなった。 国王はジャノに近づく。 「国王!どこの馬の骨とも知らぬ者に近づくのは危険です!」 フランは王に進言するが王はそれを聞かずにジャノの前で立ち止まった。ジャノは王に近づくと深々と頭を下げた。 「僕はジャノ・フリークスと申します。ニコフサで生まれ育った発明家です。」 ジャノの自己紹介を聞いた兵士の一人が何かを思案し始める。そして思い出した。 「ジャノという名前を聞いた事があります。ニコフサにジャノという変人の発明家がいると。」 「発明家・・。」 兵士たちがそれを聞いてざわめく。 「静かにせよ!」 王が一喝すると兵士たちは一斉に口を噤んだ。 「僕はずっと空を飛ぶ事を夢見てきました。それを実現しようと研究に研究を重ね七年。ようやく完成しました。」 ジャノは誇らしげに語る。 「それは真か。」 王は驚愕し、にわかに信じられなくて聞き返した。 「はい、翼を完成させました。それを王にお見せしたくここに参りました。」 「その翼はどこにあるのだ。」 王はジャノの体を見渡し問いかける。 「シュンケ達が持っています。」 ジャノはそう言うとシュンケ達を指差した。それにつられて王も見上げる。確かに空族が何かを抱えているように見えた。 「あの得体の知れないものが翼だというのか。」 「はい。あの翼を背負えば誰だって空を自由に飛べるようになります。どこへでも好きな所へ行けます。」 ジャノの瞳には全く嘘がない。淀みなく真実を語るその目は人生の全てを賭けている目だ。 「本当に飛べるようになるのか。」 王は念を押して聞く。だがすでに王の心はジャノの言葉に惹かれ始めていた。そんな王の心の傾きを何とか食い止めようとするフランは王とジャノの間に割り込んだ。 「人間に空飛ぶ翼など作れるはずがありません。翼を作ったなどというのはこの男の真っ赤な嘘です。こんな得体の知れない男の言うことなど聞くに値しません。」 フランは王を説得を試みたがジャノは屈しない。 「真っ赤な嘘かどうか見ていただければはっきりします!」 「うむ。本当かどうか見てみるだけでも損はあるまい。」 王が興味深そうに言うと 「王!この男の戯言でございます!そんなことよりあの空族を捕まえる方が先決かと!」 焦ったフランは必死で王の興味を空族に向けさせようとした。しかし王は冷静な眼差しをフランに向け 「しかし空族の血を飲むよりもジャノの翼の方がよっぽど現実味があるだろう。それはお前も本当は分かっているのではないか?」 「くっ・・・!」 王がもっともなことを言うのでフランはそれ以上何も言えなくなった。ただ悔しげに唇を噛みしめるだけ。ジャノはキリッと顔を引きしめた。 「人間である僕が空を飛んで見せます。だからもう空族には手出ししないでください。」 「どういうことだ。」 フランが眉をしかめ尋ねる。 「自由に空を飛べるようになれば空族の血なんて必要なくなりますよね。空族にはもう用はなくなるはずです。」
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