「何が言いたいのだ。」 「前国王の意志を継ぐべきだと言っているのです。前国王は空族の力を手に入れこの国の領土を広げることに全人生を賭けておられました。空中を制する者が世界を制するのです。それなのに国王ときたら昔から空族にはあまり関心がないとお見受けします。それはこの国の繁栄に関心がないからでしょう。隣国を征服し富を我が国のものとすることこそ国益となるのです!そしてそれを叶える為には飛行術は欠かせない。空族の血が必要不可欠なのです!!」 フランは一気にまくしたてた。その目は背筋がぞっとするほどの策士の目。鋭く容赦がない目。 「空族を捕らえ拷問することが国益になるというのか。」 王が咎めるように聞き返す。 「そうです!まずはそいつから空族の居場所を聞き出し空族を捕らえその血を飲めば我々は翼を手に入れる事が出来るのです!飛行術は最高の武器になります。敵をあっという間に一網打尽に出来ます!!」 フランは興奮しまくっている。 「では聞くが。」 王はフランの興奮などまるで眼中にないかのような静かな物言いで切り出した。 「隣国にあって我が国にないものはなんだ。逆に我が国あって隣国にないものは?幸いなことに今はそれは見当たらない。戦争とは格差から生まれるものだ。我が国と隣国は富も負債もほぼ同等。我が国は今十分な富を得ている。そしてそれは隣国も同じ。今の安定を手放してまで戦争を仕掛けてもなにひとつ得られるものはない、失うものは大いにあるだろうがな。現に隣国に密偵を忍ばせているが密偵からも隣国に不穏な動きは一切見られないとの報告を受けている。それなのになぜお前はそれほどまでに戦争を仕掛けたがる。」 王は実に理路整然と語る。だが王が理性的になればなるほどフランは感情的になっていく。 「それは王も隣国も甘いのです!今は良くてもこの先どうなるかは分からない。だから今のうちに先手を打つのです!まずはその空族を殺し、のこのことやってくる空族を捕獲し一滴残らずその血を搾りだし飲み干すのです!そうすれば我々は飛べるようになるのです。飛べるようになるのです!飛べるのですよ!!」 フランはもはや普通ではない、狂っていた。フランの狂気の目はレンドの背筋を凍らせた。持論に酔って暴走するフランの血生臭い思想にレンドは危惧の念を抱く。フランをこのままにしていたら必ず謀反を起こす。王を暗殺し国政を乗っ取ろうと画策しかねない、いやもうすでに目論んでいるのでは? レンドはこの危険分子をこのまま放置して置けないと思った。フランを消すしかない。レンドはそっと剣の鞘に手をかけた。覚悟を決めた目で手に力を込めたその時。 「レンド!!」 王の力強い声が響き渡った。はっとするレンド。王は目でレンドに話しかけてくる。『今はやめておけ!』と。レンドはそれを受け納得がいかないながらも鞘から手を放した。レンドにとって王の命令は絶対なのだ。王はレンドの殺気が和らいだのを確認するとフランに向き直って命じた。 「そなたの考えは分かった。だが今は捕虜を奪還しにくる空族を捕獲することに専念しろ。だが決して殺めるな。傷つけずに捕獲することに全神経を注げ。」 フランは、空族を殺めるなどころか傷つけるなという王の命令は到底受け入れがたいと思った。しかし、今そんなことにこだわっている場合ではない。不服ではあるがとりあえず捕獲に向かった。部屋を出て行くときにレンドを一瞥し、ふっと鼻で笑うことは忘れない。レンドはフランが去った途端、王に詰め寄った。 「なぜ奴を野放しにしておくのです。奴を生かしておくのは危険です!」 「ああいう輩は締め付ければ締め付けるほど病んでいくのだ。ある程度野放しにしておいた方が行動が予見しやすい。」 「しかし・・・。」 レンドは不安を隠せない。 「案ずるなレンド。フランの真の狙いは分かっておる。奴は国益や戦争を口実にしているが本当は飛行術が欲しいだけなのだ。奴の空族への執念は国を憂いてのものではない、飛ぶ力が欲しいだけなのだ。もし本当に国のことを思っているのなら今ある安定を捨ててまで戦争を仕掛けようとは思わないからな。それに・・・。」 「それに・・・?」 「フランの目は父の目に似ている。国を思って空族を狩っていた時の目ではない、いつしか空族を狩ることそのものが目的になってしまった父の狂気な目に・・・。」 「前国王の・・・。」 レンドは前国王の在りし日の姿を思い出した。髪を振り乱し熱に浮かされたかのように空族を追っていたあの前国王・・・。 「目が覚めたか。」 突然の王の言葉にレンドは回顧から引き戻されカリンを見た。 「・・あれだけ大声を出されたら目も覚めます。」 カリンが答えた。王は高らかにはっはっはっと笑い 「もう大丈夫そうだな。」 そう言って席を立った。レンドとすれ違いざまにその耳に囁く。 「フランやラジィがこの部屋に入ってこないように見張っていろ。」 「承知致しました。」 レンドは頭を下げ王が部屋から出て行くのを見送った。
いよいよハラレニが見えてきた。シュンケはハラレニの町をキッと見据える。 「行くぞ!!」 シュンケの合図。ジャノとルシアは決意を胸に秘め深く頷いた。ジャノはサンキットに合図を送るとサンキットは勢いよく走り出した。シュンケとルシアは高く舞い上がりジャノに続く。 ハラレニの町は大騒ぎだ。兵士たちが町中を駆け回り物々しい空気が辺りに充満している。 「来たー!!空族が来たぞー!」 突如、兵士の甲高い声が響く。皆が一斉に空を見上げた。一人の兵士が空を指差している。その先を辿ると空族がいた。町の人々はこれから起きる惨劇を恐れ、慌てて家や建物の中に転がりこみ籠った。 「撃て!!」 ラジィの怒声と共に銃声が一斉に鳴り響く。バーン。バーン。バーン・・・。
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