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作品名:空族と発明家ジャノの翼 作者:空と青とリボン

第77回   77
「随分と空族に入れ込んでいるな。」
マスターがからかうように言うとルパは何をいまさらという表情で
「トーマスと出会って三年だ。トーマスを見ていれば空族が分かるさ。」
「その通りだ。」
突如、男の声が二人の間に割り込んできた。ルパが驚いて振り向くと気の良さそうな男が一人、だが顔を苦痛に歪めて立っている。マスターはその男の顔を見るなりグラスを差し出した。
「ようこそフランキー。あんたも昼間から酒飲みかい?」
フランキーと呼ばれた男はおもむろにルパの隣に座るとグラスを握った。
「一杯だけもらおうか、強い奴を。」
フランキーの要望に応えたマスターはグラスにウイスキーを注いだ。フランキーは苦渋に満ちた表情でそれを一口含むともっと辛そうな顔をした。
「カリンの事を思うと飲まずにはいられないんだ。」
ぼそっと呟く。
「カリン?」
ルパが不思議に思い聞き返す。
「捕らえられた空族の名前だよ。私も空族と話したのさ。それも半日もたっぷりとね。」
「じゃあ、あんたのところの店も営業停止をくらったのかい?」
「いや、うちは物を売っただけだから厳重注意で済んだよ。」
「そうか、それは良かったな。」
「・・・カリンは絵が大好きな青年でね。うちの店に来てずっと絵の具を見て回っていた。私が話しかけたらとても嬉しそうに画材のことを聞いてきてさ。私も嬉しくなってあれやこれや勧めたさ。カリンは本当に絵を愛している好青年だ。あんないい子が空族という理由だけで捕まって城に連れていかれるなんて・・。」
そこまで言うとフランキーは声を詰まらせた。そんなフランキーの背中をルパが優しく叩く。少し気持ちが落ち着いたのかフランキーは
「名前を聞いたら喜んで教えてくれた。心にやましい事がある者があんなに嬉しそうに他人に自分の名前を教えるか?教えないだろう。本当に国王も兵隊も町の皆も分かっていない!」
フランキーは思いのたけをルパとマスターにぶつける。マスターは先ほど見た光景とそっくりな事に微笑み、ルパは分かるぜと言ってフランキーのグラスに自分のグラスを軽くぶつけた。カキン・・・。グラスの透き通った乾いた音色が響く。マスターはそんな二人を懐の深い眼差しで温かく見守っていた。

 城の中を酷く慌てた様子でフランが足早に歩いていく。王の間を覗くがそこには探している王は居なかった。フランはチッと舌打ちし、王の姿を求めて城中をうろうろしていた。しかしふと何かを思いついたのか踵を返してレンドの部屋に向かって歩き出した。
レンドがいた。だがレンドは自分の部屋の扉の前に立っている。まるで何かを見張っているかのようだ。フランは直感で王はここにいると思った。レンドは王から厚い信頼を寄せられている、フランはそれが面白くなかった。レンドの前に立つと冷めた口調で言い放つ。
「そこをどけ。」
「断る。」
レンドもまたフランをよく思っていなかった。
「王に大切な話がある。国の一大事に関わることだ。お前と話している暇はない!」
フランが吐き捨てるように言った。その目は侮蔑の色を隠そうともしていない。フランの大声は中にいる王にも届いた。王はフランに中へ入るように促す。
「レンド、良い。通せ。」
レンドは王の命令により仕方なく扉の前から離れた。フランは勝ち誇ったような目でレンドを一瞥した後、襟元を正し扉を開けた。中へ入ると否や
「王。空族がここに向かっているという噂を耳にしました。捕虜を奪還しにくると思われます。いやそれどころか報復を企てているに違いない。直ちに捕虜を始末し、空族を迎え撃つ準備をなさ・・・。」
そこまで言いかけた時、王の向こう側にいる存在に気づいた。とたんにフランの顔色は豹変した。
「何をなさっているのです!?王!」
フランは喚きながらその者に近づいた。その者はベッドの中で横たわっている。
「大声を出さなくても聞こえている。もっと静かに話せ。この者が起きるではないか。」
王はフランを窘めた。だがそれがますます火に油を注いでしまう。フランは顔を紅潮させ激怒する。
「捕らえた空族がなぜここにいるのです!?しかも手当までされているなんて!!」
カリンは傷の手当てを施されたらしく体中に包帯が巻かれていた。
「我がここにこの者を運ぶようにレンドに命じた。何か文句でもあるのか。」
「文句もなにも捕虜を手厚く迎えるなんて聞いたことがありません!!」
「手厚くといっても傷の手当てをしただけだ。」
「それが必要ないと言っているのです!!」
フランの怒りが頂点に達しているのはその顔を見れば一目瞭然だ。しかし王は椅子から立ち上がるとフランを戒めるような強い口調で
「お前の目の前にいるのが国王であるという事を忘れているようだな。」
圧倒的な権威がフランを見据える。王の権威溢れる目にフランは一瞬たじろいだ。しかしそれでもフランの腹の虫はおさまらない。
「国王の自覚がおありの方ならそれにふさわしい態度を取らせていただきます。しかし今、目の前におられるのは国王とは名ばかりの王でございます!」
フランが怖いもの知らずのことを言ってのけた。するといつの間にか部屋に入ってきたレンドがフランの不遜な態度を見て声を荒げた。
「国王に対して何ということを言うのだ!国賊的行為だぞ!!」
レンドは激怒している。だが当の王は至って冷静だった。王はレンドを制するとフランに尋ねる。





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