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作品名:空族と発明家ジャノの翼 作者:空と青とリボン

第76回   76
 ハラレニの町はどんどん近づいてくる。よく整備されたレンガ雑じりの道をジャノは馬で駆け抜け、そのはるか頭上をシュンケとルシアが滑るように飛翔していく。その姿はあまりに目立っていた。道をゆく人たちは空を見上げ酷く驚いた。持っているバッグをおもわず落としたり、呆気にとられて口をあんぐりさせて固まってたりとまるで喜劇のリアクションそのものだ。我に返った人々は大慌てで今見たばかりの光景を家族や友人、同僚、遠い親戚、すれ違う人、それはもう会う人会う人に話した。
「さっき空族を見たぞ。」
「生まれて初めて空族を見たよ!綺麗だった。」
「どうやら西へ向かっているようだ。」
空族が西へ向かっているという噂は瞬く間に世間に広まっていく。それはもちろんハラレニにも。ハラレニの人々は噂を気にし、疑心暗鬼の雲が心の中で不気味に広がっていく。
「空族の仲間がこちらに向かっているらしいぞ。」
「怖いねぇ。報復されるんじゃないかい。」
「いや、仲間を奪還しにくるだけだろう。」
「それで済むわけがないじゃないか!今まで人間に酷いことされ続けたんだ。特に前国王は酷いことをしてきたんだぞ。奪還だけで気が済むわけがないだろう!」
噂は噂を呼び、憶測は憶測を呼ぶ。ハラレニの人々は不安と疑心の渦に巻かれていく。恐怖と疑念が支配し先ほどまでの賑やかな街並みは一変した。カリンが始めて見たあの活気は嘘のようにかき消されていた。
「暫く外へ出るのはやめた方がいいな。」
「そうね、空族に何されるか分からないわ。」
こうして町の人々の心に根拠のない空族への恐怖が植えつけられていく。

「皆、何も分かっちゃいねえ。」
ルパは居酒屋で一人くだを巻いていた。まだ昼間だというのにルパはすっかり出来上がっている。居酒屋のマスターはルパに水を差しだした。
「なんだ、酒じゃねぇのか。」
ルパは面白くなさそうにグラスを向こうに遠ざける。
「ルパ、お天道様が高い内から飲んだくれていると神様に呆れられるぞ。」
マスターはそう言うともう一度水をルパの前に差し出す。
「仕方ないじゃないか。店が一か月の営業停止をくらっちまったんだから。他にやることがねぇのよ。」
ルパはふてくされながら水を飲みほした。ルパは空族に金銭を渡した罪でフランから糸問屋の一か月の営業停止を命じられたのだ。マスターはルパに同情の目を向けながら
「災難だったな。空族とは知らなかったんだろう?それなのに営業停止とは酷い事しやがる。」
しかしルパはマスターの意図した所とは違うところで憤っているようだ。
「トーマスは本当に質の良いポクールの実を持ってきてくれた。あんな上等なものにはめったにお目にかかれねぇ。トーマスが空族だと分かっていたとしても俺は喜んで買い取ったぜ。」
「しかし空族相手にしてよく無事でいられたな。お前運が良かったぜ。」
「運がいいも悪いもないさ。空族は俺たちになんの危害も加えないぞ。兵隊も町の連中も皆誤解しているんだ。トーマスは本当に気がいい奴だ。何回も会話しているから分かるってもんだ。それなのに町の連中も家族も空族が俺たちに報復しにくるとか勝手なことばかり言いやがって!皆なんにもわかっちゃいねぇ!!」
ルパの怒りはどんどん加速しカウンターを腹立ちまぎれに叩いた。
「まぁまぁ落ち着けルパ。空族に物を売った店の連中は内心皆お前と同じ気持ちだろうよ。だが長年植えつけられたイメージというのはそう簡単に変えられるものでもないさ。」
マスターの説得にルパは眉を顰めため息をついた。そして少し寂しげに聞く。
「いつから俺たちは空族を怖いものだと思うようになったんだろうな。」
「そりゃあまぁ、前国王が随分と空族に酷いことしたからな。いや前国王だけではないぞ?他の国の奴らもそうだ。あれだけ空族を迫害してきたんだ、空族が人間を恨んでいる。人間に報復しにくると思いこむのも無理はないだろう。それに事あるごとに兵隊がやってきて空族を見かけたらただちに通報しろと言われ続ければ町の皆も空族を警戒するようにもなるさ。」
マスターは遠い目をしてルパに言うがルパはまだ納得がいかない。
「一度空族と話してみれば分かるのにな。百聞は一見にしかずだ。空族は皆が思っているような危険な存在ではないと分かるはずなんだ。」


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