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作品名:空族と発明家ジャノの翼 作者:空と青とリボン

第6回   6
何か嫌な予感がした。戻った方がいい。
肌に当たる大気の質が変わった。嵐がくる。戻らなきゃ。
ナーシャはようやく身を翻し、今来た道を、いや、空を戻ろうとした時だ。
突然、ものすごい風がナーシャを襲った。風の塊が体にぶつかってきてバランスを崩した。木の葉のように煽られながらもどうにか体勢を立て直し、冷静さも取り戻した頃、同じように風で煽られた鳥たちが大急ぎで飛んでいく。
早く帰らなければ、そう思った時だ。ぽつんと何かが体に当たった。
「雨?」
まずいと思った。雨に降られたら体中の絵の具が溶け落ちてしまう。ナーシャは慌てて引き返すが無情にも雨はどんどん強くなっていく。
ザァァァァ・・・。肌に叩きつける雨粒が青色絵の具を徐々に、しかし確実に落としていく。少しずつ露わになっていく白い肌。そして白い翼。このままではすべて露天してしまう。
こんな雨では人間も家に籠っているだろうから見つかる可能性は低いが、かといって油断は出来ない。雨空を見上げるのが好きな人間だっているのだ。
ナーシャは雨に打たれようがどんなに疲れようが飛び続けるしかない。地上には下りられない、下りた途端見つかってしまうから。ナーシャはひたすら翼をはためかせる。
しかし、雨雲はナーシャに覆いかぶさりいっこうに動こうとしない。雨が当たるたびにどんどん体温が奪われていく。雨雲の上に出てしまえばいいのだがとてもそんな体力はない。飛び続けるという事は相当な体力が必要なのだ。体力を考慮して往復出来る所までにしようと計画していたのに無我夢中で飛んでいるうちにあっさりとその計画を忘れおまけに予想だにしなかった雨。重なる計算外の出来事に体力はどんどん失われていく。
息は荒くなり、翼もやっと思いで動かしている。このままでは体力が尽きて墜落してしまう、危機を感じたナーシャはどこかにいったん下りて、体を休ませようと考えた。
要は人間に見つからなければいいだけのこと。ナーシャは人気のない林を探し始めた。

 その少し前、小石が彩る道をとぼとぼと一人歩く若者がいた。若者は何やら大きな荷車を引き、重い足取りで歩いている。その表情は浮かない。
若者の名前はジャノという。
ジャノは先ほどの出来事を思い出していた。今から四十分前の出来事を。


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