ただ一つシュンケが疑問に思う事があって、こんな穏やかなハルとルリの間から勝気でお転婆なナーシャが生まれた事が不思議であり謎だった。 シュンケとナーシャは一時停戦を決め、それぞれの作業に戻った。ところでと 「ルリ、体の具合はどう?これから長旅になるけど大丈夫?」 シュンケが心配そうに尋ねるとそれはナーシャにとっても気になる事らしくルリの表情を窺った。ルリは二人に心配かけまいと今出来る精いっぱいの笑顔で 「体の具合は大丈夫よ。ちょっと疲れがたまっているだけだから。」 しかしその笑顔はやはり弱弱しい。ハルにはルリが無理しているのが痛い程分かった。せめて医者にかかる事が出来れば・・・。ハルは悔しさと情けなさでいたたまれなくなった。 ふう・・・。ハルは額の汗をぬぐった。どうやら荷造りは終わったようだ。 「シュンケ、ありがとう。シュンケのおかげで予定よりも早く片付いたよ。」 「うん。」 シュンケは嬉しそうに頷いた。 「私も頑張ったよ!」 シュンケばかりが褒められるのが気に入らないナーシャは私も褒めてとアピールする。 「ナーシャも頑張ったな。」 ハルはナーシャの頭を優しくなでた。喜ぶナーシャ。 「ところでシュンケ。もうカーターの所へ戻りなさい。そろそろ出発の時間だ。」 「えっ?僕もルリの手助けをするよ。」 正義感溢れる小さな眼差し。それを嬉しくも頼もしくも思うハルだが。 「気持ちだけ受け取っておくよ。でもシュンケがいないとカーターも心配で落ち着かないだろう。」 「父さんは僕の心配なんかしないよ。いつも一族の事ばかり考えているんだもの。」 シュンケはそう言うと頬をぷうと膨らました。 「子供の心配をしない親などどこにもいない。口に出さないだけだ。カーターは頭領だから心配してもそれを表に出さないだけだよ。もし頭領が不安そうな顔をしていたら皆も不安になるだろう?」 「それはそうだけど・・・。」 そうは言われてもシュンケはルリの事が心配でならない。 「ハルの言う通りよ。カーターはあなたが戻ってくるのを今か今かと待っているわ。同じ親だから分かるの。それにサラもあなたがそばにいないと不安で引っ越しどころではないはずよ。」 シュンケの脳裏にサラの顔が浮かぶ。 「私にはハルもナーシャもいるから平気よ。」 ルリが微笑みハルも笑う。ナーシャは相変わらず不愛想にちらりとシュンケを見ると 「早く父親の所へ戻りなさいよ。迷子になりたいの?」と悪態づく。 「全くこの子は。」 ハルとルリは苦笑いした。 「じゃあ、いったん戻るね。ハル達もはぐれないでね。」 シュンケは元気に手を振ると一目散に両親の元へ駆け出した。シュンケの後ろ姿を見守るハルとルリ。ナーシャは心なしかどこか寂しそうな顔をしている。 「あの子は父親に勝るとも劣らない立派な頭領になるだろうな。」 「えぇ、そうね。」 ルリも心の底から同意した。 「さて、出発の合図を待つとしよう。」 ハルは優しくルリの肩に手を置いた。ルリは静かに頷く。今度の旅も長くなるだろう。険しい森を抜け、獣道を行くこともあるだろう。いや、獣道さえないかもしれない。飛べば早いがそれは目立つ。しかもルリには飛ぶ体力が残っていない。これから乗り越えなければならない困難を思うと不安にならずにはいられないハルとルリであった。
貝で作った笛の音が森の中に響き渡った。それが出発の合図だ。空族は一斉に歩きだす。それぞれに大きな荷物を抱えていた。静寂の森の中、小枝が折れる音だけが辺りを支配している。空族は皆、無言であった。カーターを先頭に一列になってひたすら北へと向かって歩いてく。シュンケは足早に歩く父親に追いつこうと小走りで歩く。カーターは列に遅れている者はいないか時々振り返って見渡し、いないと分かると再び歩きだした。 「お父さん、次はどこに住むの?」 「北の森だ。国境に近いと人間の警備が厳しくなるから出来れば避けたかったがそこを上手くくぐり抜けられれば人も寄り付かない深い森がある。そこに行くことにした。」 「上手くくぐり抜けられるかな?」 「分からぬ。だが今は他に候補地がない。行くしかないだろう。」 「ナーシャ達、大丈夫かな?」 シュンケは心配になって後ろを振り返った。遠くに辛そうに歩くルリとそれを支えるハルとナーシャの姿が見えた。 「父さん、ルリが辛そうだよ。もっとゆっくり歩こうよ。」 「移動に時間をかければそれだけ人間に見つかる可能性が高くなる。」 「それはそうだけど・・・。じゃあ飛んで行こうよ。それなら速いし高く飛べば人間の武器も届かない。」 シュンケは良いアイディアでしょ?と言わんばかりに父を見上げるが
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