四苦八苦しながらも何とか塗り上げた。何時間かかったのだろう、ようやくナーシャを青空と同化させることが出来た、 しかし、さすがに完璧とは言い難い。所々まだらになったりして均等ではないが遠くから見れば分からないだろう、贅沢はいうまい。ナーシャは青空色に染めあがった自分の姿を見て感激している。喜びのあまり、カリンに抱きついた。 「ありがとう!ありがとう!」 何度も感謝するナーシャ。そのまま希望に背中を押され弾むように外へと駆け出していった。そんなナーシャの後姿をカリンは見送り 「全く無茶な事をするなぁ。」と苦笑いをするばかり。 しかし、心のどこかでうらやましく思う自分もいて。自分だけの空・・・。僕にも自分だけの空があるんだけどな。でも、ナーシャみたいには出来ないや。キャンパスを見つめ寂しそうに呟いた。今のカリンには一つだけどうしても描けない空がある。 ナーシャは小高い丘の上に立ち、大きく深呼吸をした。そして意を決する。 翼を大きく広げ、上へと舞い上がった。ここまでならいつもやっている事だが、そこから先は行ったことがない。空族の村から一キロ以上遠くへ行ってはいけないからだ。 でも、今回は違う。もっと高く。もっと遠くへ。ナーシャは翼をはためかせ山肌にそって下降し始める。空族の村はすぐに見えなくなった。鬱蒼とした森の上を越え、森を取り囲むように流れる河を越える。この河の岸までならシュンケ達も下りてきてはいる、とある事情により。 しかし、ここから先はシュンケさえ行かない。ここから先で起こる事の全てが未知の体験だ。ナーシャの胸は高鳴る。振り返ると自分たちを守り続ける険しい山や森や河がどんどん遠ざかっていく。それを見たらよりいっそう、胸の鼓動が早くなった。それは人間に見つかってしまうかもしれないという不安からなのか、それとも新しい経験をすることへの期待のあらわれからなのかは分からない。しかし、そんな複雑な思いも目にした風景でとたんに吹き飛んだ。 空から見る、捨てたくても捨てられなかった景色。不安も忘れひたすら飛び続けた。 空族を守る森とはまた違う色をした森、あれは林というものだろうか。道が遠くに見えてくる、綺麗に伸びる道、人間が作った道だ。 牧場も見えてきた。ミニチュアサイズの牛や馬がのんびりと草を食んでいる。ナーシャはとても幸せな気持ちになった。 眼下に広がる絵画のような風景、目の前に広がる地平線、その全てがナーシャの心を震わせる。溢れる感動が心も体も包み込む。あまりの喜びに自分がどれくらい飛んできたのかも忘れてしまった。 すぐに戻るとカリンと約束したのにそれさえも忘却の彼方。 もっと遠くへ、もっと遠くへ・・・。 ふと顔を上げて前を見ると少し離れた向こうの空に黒い雲がもくもくと湧き上がっているのが見えた。
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