「そんなに・・・。」 ナーシャもため息をつく。 「僕もこの石を手に入れるのに親から譲り受けた土地を売りとばした。僕はなんて親不孝なんだろうな・・・。」 ジャノが悲しそうに言う。ナーシャは何とか慰めたくて自分の体をそっとジャノに寄せた。ジャノはナーシャの優しさを受け取り萎えかけていた希望を取り戻した。そして自分を奮い立たせる。 「でも諦めないよ。まだ金充石は二つ残っている。この金充石がなくなるまでに絶対に完成させてみせる!」 ジャノは決意を新たにして立ち上がった。 「無理しないで。」 心配するナーシャの声はジャノの耳には届かない。
試運転から一か月後、ジャノの怪我はだいぶ良くなっていた。打撲の跡もすっかり消えてまた翼の完成に没頭する日々。だがたまには気分転換をと散歩に出かける事にした。 「夕方までには帰ってくるよ。」 「気を付けてね。」 ナーシャは笑顔で見送った。 少ない金充石でいかに効率よくエネルギーを抽出し石が溶けるスピードをいかに遅くするか、あれやこれや考えながら歩く。結局、気分転換にはなっていない。一か月前に失敗した草原に辿り着くと何やら人影が見えた。どうやら誰かがキャンパスに向かっているようだ。その真剣は横顔の輪郭だけでそれが誰なのか分かった。 「カリン。」 ジャノがその人影の名を呼んだ。振り向くカリン。嬉しそうな笑顔を向けてくる。ジャノはカリンの傍に立ちキャンパスを覗き込みながら眩しそうに目を細めた。 「青空の具合はどうだい?」 「絶好調だよ。ジャノは?翼の具合はどう?」 「絶好調さ。」 二人は顔を見合わせて笑った。キャンパスにはそれはそれは素晴らしい空の絵が描かれている。 「それにしてもいつ見てもカリンが描く青空は素晴らしいな。」 ジャノは感心して絵に見入っている。 「あまりに素晴らしすぎてちょっと胸が痛くなるよ。」 しみじみと語った。カリンはそれを不思議に思う。 「胸が痛くなる?どうして?」 「この絵の中に住みたくなるからさ。でも住めないと分かっているから余計に切なくなる。」
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