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作品名:空族と発明家ジャノの翼 作者:空と青とリボン

第4回   4
「まぁ、許さないだろうね、ナーシャにそんな危険な真似をさせるはずがない。」
だから諦めてと言おうとした時だ。ナーシャは揺るぎない真っ直ぐな眼差しでカリンを見つめながら
「自分だけの空を見つけたいの。十年前のあの時からずっと空を飛ぶ事を禁じられてきた。でも、私は過去を振り払いたい。振り払って自由に空を飛びまわりたい!!」
十年前・・・。その言葉を聞いてカリンはハッとした。あの時の悲しみ、苦しみがカリンの心に残酷なほど蘇る。でも、だからこそ、寛容にはなれない。
「でも、もし人間に見つかったら?見つかったら狩られるよ。」
厳しい目でナーシャを戒める、そこには普段の優しいカリンはいない。それでもナーシャはひるまなかった。強い眼差しで反抗する。衝突する二つの視線。
「覚悟の上よ。それに地上には下りないわ。遠くの景色を見たらすぐに戻ってくる。だからお願いよ。私はあの過去を乗り越えたいの。」
ナーシャの縋るような瞳。
過去を乗り越えたい、それはカリンだって同じだ。カリンは絵を描くことで過去を乗り越えようと必死であがいてきた。一心不乱に絵を描くことによって過去を忘れ、自由に空を飛ぼうとした。
では、ナーシャは?どこへでも行けるのにどこへも行けない。ナーシャはどうやってあの日の出来事を忘れて自由になれる?カリンは思い悩んだ。懸命に訴えるナーシャにそれでも駄目だとは言えなくなって。そしてとうとうカリンは折れた。
「分かった、協力する。」
カリンの言葉でナーシャの瞳にまばゆいくらいの光がさした。
ナーシャは輝く瞳で
「皆には内緒よ。もちろんシュンケにも。言ったら絶対止められるから。」とはしゃぐ。
「分かっている。」
カリンは一言そう答えて青色の絵の具を取り出した。十本、二十本じゃ足りなさそうだ。以前まとめ買いしたのがあることにはあるが、ナーシャに使ってしまったらなくなってしまう。困ったなとカリンはナーシャの顔を見るがナーシャはカリンの迷いなど知るはずもなく、ただただ、希望に胸を膨らませている。ナーシャは自分だけの空を探しに行くのだ。カリンは自分の胸に手を当てた。胸の中に広がる空に手を当てた。ようやくカリンは覚悟を決めた。
「さすがに全身を塗るだけの絵の具は無いから翼と露出している肌の部分だけ塗るよ。だから服は出来るだけ空色に近いものを選んで着てくれない?」
ナーシャはカリンの提案に喜んで乗る。早速家に飛んで帰ると青色の服を着てすぐに戻ってきた。この作戦が上手くいくとは限らない。これは賭けだ。一か八かの賭け。ナーシャに賭けてみる。ナーシャなら過去を払しょくし、未来を変える事が出来るかもしれない。カリンは願いを込めてナーシャを青空色に染め上げていく。顔、腕、足、そして翼。翼を塗る時が一番大変だった。なんせ面積が広い上に鳥の羽と同じくふわふわしているからだ。


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