テントのすぐ外にはジムがいた。ジムは気難しい顔をしながら腕組をし、シュンケが出てくるのを待っていた。 「ジム、どうした。」 シュンケが尋ねるとジムはまだ分からないのかと少し苛立ち気味にシュンケに詰め寄った。 「ナーシャをジャノに渡していいのか。」 責める色合いを含んだ声。シュンケはなんだそんな事かと軽くため息をついた。 「ナーシャが選んだ答えだ。誰にも曲げることは出来ない。」 ジムが予想していたどおりの答えだ。 「それはそうだがお前の気持ちはどうなる。ずっとナーシャの事を想い続けてきたのだろう。それこそ幼い頃からずっと。」 「・・・。」 ジムにそう言われシュンケは少し考え込んだ。暫くしておもむろに歩き出した。ジムもそれについていく。 「私は空族の頭領だ。頭領として何をすべきか、すべき事をしたまでだ。」 「・・・。」 「それにな、ジム。例え私が頭領でなかったとしても同じ事をしただろう。」 しかしジムはこれは聞きづてならないとばかりに反論する。 「それは違う!お前は頭領でなかったら力づくでナーシャを奪ったはずだ。頭領だから一族の将来を思い身を引いただけだ!」 「奪うとは人聞きの悪い事を言うな。私は女の気持ちを無視して力づくでものにしようと思うほど女に飢えてはないぞ。」 シュンケは冗談はよせとばかり明るく笑って答えてみせた。 「それは分かっているさ。」 ジムは口ごもった。シュンケは急に真面目な顔になり 「ジャノには勝てないのだ。逃げる事や隠れる事しかしてこなかった私は一生あの男には勝てない。」 シュンケは遠い目をしてそう言うがジムはかえって憤慨し 「それはお前が僕たちを守る為にしてきた事だろう!お前一人だったら人間に立ち向かっていったはずだ!!」 「人間に立ち向かう機会は今までにも幾度もあった。だがその度にその機会を自ら放棄してきたのだ、私は。」 寂しそうにシュンケが答えるとジムは切れる一歩手前の表情で 「シュンケは今までも僕たちを逃がす為に一人で人間に立ち向かっていったじゃないか!僕らを逃がす為に盾になったり、守る為に戦ってくれたじゃないか。忘れたとはいわせないぞ!それに空族はたった五十五人しかいないのにどうやって人間に立ち向かえと言う!?人間は何億人もいるんだぞ、立ち向かっていけるはずがないじゃないか!逃げ回るしかないじゃないか!!」 行き場のない怒りをやるせなさを一気にさらけ出しシュンケに詰め寄る。それに対してシュンケはやけに穏やかで。 「そうだな、人間は何億人といる。だがジャノはたった一人でその何億人という人間に立ち向かおうとしているんだ。」 「!!」 ジムはシュンケの言葉に衝撃を受け何も言い返せなくなった。ジムはそんな自分自身が悔しい。沈黙が二人の間を流れる。その沈黙を突き破るかのように 「翼など完成するわけがない!!」 ジムが感情的に叫んだ。 シュンケは苦笑いをした。少し前の自分を見ているかのような気分になったからだ。
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