「翼を作るってどういうこと?いやそんなこと出来るはずがないわ。」 「そうだ!そうだ!翼を作るなんてそんな馬鹿げたこと誰が本気にするものか!」 皆が口々に反論する。だがナーシャは違った。 「彼なら出来るわ。彼は世界一の発明家ですもの。」 ナーシャの瞳は自信にみち溢れている。ジャノのことを心から信じて疑わないからだ。 「世界一の発明家・・・。」 その言葉が皆の胸に新たな波を起こした。戸惑いと期待。空族の心が大きく揺れる。 世界一の発明家ならもしかして実現出来るかもしれない。淡い期待が皆の心を揺さぶる。だがその期待も新たにもたげた不安の渦に飲み込まれていく。果たして期待してもいいのだろうか。信じて期待してまた裏切られるのではないか・・・。 「その発明家とやらは信用出来るの?」 ジムの妻、ナタリーが慎重さを崩さず問うと 「出来るわ。ジャノは発明家でとてもいい人だもの。」 ナーシャは張り切って答えた。そんなナーシャを見てナタリーはハッとする。もしかしてナーシャはその人間の事を・・・。 期待と不安の狭間で空族たちの心は嵐の中の木の葉のように煽られた。悲惨な過去と未来への期待がギリギリの線上でせめぎ合う。 「ところでさ、なんでそんなに詳しいんだい?そのジャノという男にばかにご執心のようだけど?」 ルシアがいきなり悪戯っぽい目で尋ねてきた。シュンケはとたんに眉をしかめ、カリンは恨みがましい目でルシアを睨んだ。ルシアにつられて皆もそうだそうだと騒ぎ出す。 「発明家だとか翼を作っているとかなぜそんな事を知っているんだ?どこで知り合ったのだ?」 あちらこちらから疑問の声が吹き出し始め、シュンケは舌打ちした。なんとかこの場をおさめようと乗り出す。 「とにかく!!信用できる男だ。これで話はお・・・。」 話はおわりだと言おうとしたその時 「ジャノと出会ったのは二週間前よ。私が人里に下りた時に出会ったの。」 ナーシャが白状した。 「え!?」 「今なんと言った・・・?」 「人里に下りたってどういうこと?」 カリンやルシアを除くその場にいる皆が衝撃を受け騒然とする。 「ナーシャ!!それ以上何も言うな!」」 シュンケはナーシャを止めようとするがナーシャは止まらない。そのことを知らなかった空族たちは驚愕の告白に体が固まってしまっている。 「私が人間に見つかって捕らえられそうになった所をジャノが助けてくれたの。」 次の瞬間、皆の溜まっていた怒りがとうとう爆発した。 「人里に下りただと!?」 「人間に見つかるなんて!」 「我らを滅ぼす気か!?」 「なんて身勝手な!!」 皆の非難がナーシャに殺到した。責められ口を噤むナーシャ。それを見かねたシュンケは声を荒げた。 「いい加減にしろ!!」 あまりの迫力に一斉に押し黙る。しかし水面下では不満が沸々としていた。その不満がまたいつ爆発してもおかしくない。ナーシャはひたすら頭を下げ 「本当にごめんなさい。勝手な事をしてしかも人間に見つかってしまって。でも信じて。ジャノは他の人間とは違うわ。」 違うと言われても信じてと言われても受け入れられない。始めはいい顔して親切そうな顔をして近づいてきてある日突然手のひらを返されたという事は過去に経験した。仮にナーシャが言うようにジャノが他の人間と違っていたとしてもそれをどうやって証明できるというのだ。皆が戸惑っていると。
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