シュンケは驚いてジムを凝視し、おばば様は意味ありげに微笑んだ。ジムは構わずに続ける。 「僕の息子、ジュノン。それにロンやザノ、ここ数年で生まれた子供。皆分かるだろう?」 皆の視界に幼い彼らの姿が映る。 「僕ら一族が他種族との交流を拒絶し僕らの中だけで子孫繁栄を図ってきた結果がこれだ。彼らは僕たち一族の排他的思考の犠牲者なんだ。」 「・・・!!」 皆も薄々と気づいてはいた。ここ数年で生まれてきた子供たちが何かしら問題を抱えている事を。それが濃くなり過ぎた血のせいである事も。しかし誰もそれを口に出来ずにいた。それを言ったところで何も変わらないからだ。人間に姿を見られたとたん我らは殺されてしまう。愛を育む前に立ちはだかるのは死だ。死んでしまっては出会うことさえ出来ない。 「人間が我らを迫害している内は人間との交流は無理だ。」 幾分冷静さを取り戻した者がそう呟いた。 「そうだ。交流を拒絶しているのは人間の方だ!!」 「我らが悪いわけではない!!」 賛同した者が口々に加勢する。 「第一ここに連れてくる人間だって何を考えているか分かったものではない。スパイかもしれないじゃないか。」 「そうよ、スパイよ!他の人間に私たちの居場所を知らせるとか!」 空族の心には猜疑心が錆のようにこびりついている。シュンケは幾分うんざりした。いや、ちょっと前の自分がそうだったかと自嘲気味に笑う。しかし何とか説得せねば。 「ジャノはそんな人間ではない。それは私が保証する。」 シュンケは迷いのない眼差しで説き伏せるが空族たちはそれでも納得出来ない。 「ジャノって誰!保証ってなぜ保証出来る?第一、そのジャノという人間のことをシュンケはなぜ知っているのだ?どこでどうやって知り合ったんだ!?」 痛いところをついてくる。 「と・・・とにかくジャノは信頼出来る。それに故郷には二度と戻らないと約束してくれた。」 「約束?」 その言葉を聞いた一人が鼻でふっと笑った。人間との約束なんてとでも言いたいのだろう。異様な雰囲気が漂う。少しでも動いたら引火してしまいそうな緊迫した空気。 その時だ。突然テントの中にナーシャが飛び込んできた。そしていきなり言い放つ。 「ジャノは私たちを絶対に自由にしてくれるわ!!」 「ナーシャ!」 シュンケは余計なことを言うなという目でナーシャを制止するがナーシャはお構いなしだ。 「ナーシャ、今までどこに行っていたの?」 事情を知らない皆はナーシャをテントの中央に手招いた。 「聞いてよナーシャ。シュンケったら人間を私たちの仲間にしようとしているのよ。」 「どうかしているわよね。ナーシャもそう思うでしょう?」 女性陣がナーシャの同意を得ようと集まってくる。ナーシャもシュンケ同様、皆からの人望は厚いのだ。ナーシャは一瞬話すことを躊躇するがすぐに思い直した。 「ジャノは機械で動く翼を作っているの。それを背負って飛べば人間だって飛べるようになるのよ。そうすれば人間はもう私たちのことなんて見向きもしなくなるわ。私たちは人間の目など気にしないで自由に空を飛べるようになれるわ!」 ナーシャは息もつかず一気に説明を始めた。
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