シャッ。 剣は鋭い音を立てながらジャノの鼻先に突き付けられた。そこでようやくジャノはシュンケの存在に気づいた。驚いた表情でシュンケを見上げている。泣きも喚きもせずただ見つめるだけ。シュンケはジャノの肝が据わっていることに密かに感心しつつも、射抜くような鋭い視線はずっとジャノを捉えたままだ。 ジャノはシュンケがやろうとしている事を悟り立ち上がった。 「僕を葬るつもり?」 するとシュンケは意味ありげにニヤリと唇の端を上げ 「お前は我ら一族に仇なす者だからな。」 それでもジャノに怯える様子はない。そして視線をシュンケからそらすことなく手に持っていた木槌をシュンケの目の前に突き付けた。それを見たシュンケは険しく眉を顰め 「それで戦おうというのか!笑わせるな!!」 吐き捨てるように言うと腰からもう一本剣を取りだしジャノの足元に放り投げた。 「それを使え。無抵抗な者を斬るのは私の趣味ではないからな。」 大抵の者ならこのシュンケの凄味を見たら背筋が凍りつき足がすくむだろう。 だがジャノは違った。ジャノは首を横に振り木槌を強く握りしめた。 「僕はこれで戦う!!」 なんと愚かな者だろう。本気で言っているか、恐怖で頭がおかしくなったか。シュンケは半ば呆れ気味に問う。 「死にたいのか。」 そこには蔑みもあった。 「僕は死なない!これを完成させるまでは死ぬわけにはいかない!!」 ジャノの足元には作りかけの翼がある。シュンケはそれをちらりと見た。こんなおもちゃにナーシャは騙されているのか・・・。そう思うとやけに腹立たしくなってくる。苛立ちとやるせなさでシュンケの眉間の皺がより深くなっていく。しかしジャノはおかまいなしだ。 「僕がこの翼を完成させれば誰もが自由に空を飛びまわれるようになる。そうすればあなた達の血も翼も必要ではなくなる。あなた達は自由になれるんだ!」 「そんな事が出来るわけがない!!」 「出来る!僕なら出来る!」 「・・・!」 真剣なジャノの気迫にシュンケは思わず気圧された。 「あなた達を自由にする為に僕は戦うんだ、この世界と!!」 木槌を持つ手に力が入る。この男は本気なのだろう。この人間の覚悟は分かった。だがそれが現実のものになる程、世の中は甘くないのだ。所詮、夢物語なのだ。それをずっと思い知らされて生きてきたんだ。シュンケはこぶしを握りしめた。 「自由・・・。無責任な事を言うな。我々が何年、何十年と求め続けて叶わなかったものを軽々しく口にするな!お前に何が分かる!!」 こみあげてくる怒りは頂点に達しそれを抑えきれない。シュンケは怒りのままに思いっきりジャノを殴った。紙屑のように吹っ飛ぶジャノ。頬を殴られ口の中を切ったジャノの唇の端から血がしたたり落ちてきた。 「立てジャノ!!私に勝てたならナーシャをお前にくれてやる。だが、勝てないならナーシャの事は諦めろ。そしてとっととここから立ち去れ!二度とここに来るな!!」
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