雲が空を覆い、漏れてきたミルク色の陽射しが辺りを包み込んでいる。 シュンケは一人、岩に腰掛け考え込んでいた。昨日おばば様が言ったことが頭から離れない。頭では分かっているつもりだ。 『一族に新しい血を入れることは必要。』でも心が解せない。『なぜそれがよりによってナーシャなのだ』答えが見つからないまま心を痛めていると、小さきものが自分の足にしがみついているのに気付いた。その小さきものは可愛らしい声で「シュンケ、遊んでぇ。」とねだってくる。 人懐こい笑顔を向けてくる子供はジムの息子、ジュノンだ。ジムはシュンケの親友であり息子は四歳になる。ジュノンは遊んでとしがみつく。しかし背中にあるのは右側の翼だけで左側の翼がないのだ。 それだけではない。普通、左右の翼があって初めて重心がとれるのだが右側の翼しかない為、常に重心が右に寄っている。そのせいで右側の足に相当な負担がかかり足の骨が少し湾曲していた。当の本人はそれを気に留める様子もなく、軽く足を引きずりながらも元気に駆け回っているが。 その姿がシュンケの目に痛々しく映る。そんなシュンケの気持ちなど知るよしもないジュノンは早く遊んでとせかす。シュンケは物悲しい気持ちになっていたがすぐにそれを打消して豪快に笑って見せた。 「あははは。よし、何して遊ぼうか。」 軽々とジュノンを抱え上げる。ジュノンはきゃっきゃっきゃっきゃっと嬉しそうな歓声を上げた。何度も高い高いをしてあげるとその度にジュノンは大喜びをする。そんな二人の様子を少し離れた所から見守る者がいた。 「本当に良い頭領になったものだ。」 その者は嬉しそうに呟やいた。シュンケがふとその者の存在に気づいた。 「ジム、いたのか。」 「気が付かなかったのか?お前とあろうものが人の気配に気づかないのは珍しい。」 「あぁ、ちょっと考え事をしていたものだから。」 「深刻そうな顔をしていたから声を掛けられなかったよ。」 「そうか・・・。」 シュンケは小さくため息をついた。 「お前はただでさえ怖い顔をしているのにそんな深刻な顔をしていたらよりいっそう怖いぞ。そんなんではナーシャに嫌われるぞ。」 ジムがからかった。 「ほっとけ。」 シュンケが苦笑いし、二人は笑い合った。ジュノンが構って欲しそうにシュンケに強く抱きつくとシュンケは小さな背中をそっと撫でた。 シュンケの様子がいつもと違う事はジムには分かっている。シュンケは何か思い悩んでいるのだろう、しかしその理由を聞くのはなぜだか躊躇われた。 「ところでナーシャはどこにいるんだ?」 このなんとも言えない重苦しい雰囲気を変えようといきなりジムが切り出した。 「知るか、そんなこと。」 シュンケは言い放つも明らかに動揺している。苛立っているようだ。ナーシャの事を常に気にかけながらもつれない事を言うのはいつものシュンケで、それを見たジムは少し安心した。いつものシュンケに戻ったな、と。
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