「人間が我らを解放するわけがないだろう。例えジャノが翼を完成させたとしてもあの欲にまみれた人間どもが我らの血肉を欲しがらなくなるという保証はどこにある。第一、飛行可能な翼を作り出すことなんて不可能だ。人間にはそんなものは生み出せない。お前だって本当はそんなこと分かっているんだろう!ジャノは空族であるお前を油断させるために口から出まかせを言っているだけだ!油断させて我らに取り入っていっ・・・。」 「ジャノは違う!」 「どこがどう違うというのだ!他の人間とジャノがどこがどう違うと!!」 シュンケの凄まじい怒りは周りで憩っていた鳥たちを怯えさせ、その場から逃げるように飛び去っていってしまった。シュンケのあまりの怒りようにナーシャは思わず立ちすくむ。 その時だ。 「行かせてやりなさい。」 老婆の声が、緊張で張り詰めた二人の間に突然割って入ってきた。 「おばば様。」 シュンケは驚きそして頭を軽く下げた。ナーシャも会釈をする。おばば様の意見はいついかなる時も絶対で、誰もが一目置く存在なのだ。おばば様は慈悲深い笑みを浮かべ 「行きなさい、ナーシャ。その若者の所へ。」 「おばば様!!」 シュンケは非難するがナーシャはおばば様の後押しを受けてほっとしたように肩をなでおろした。 「シュンケごめんなさい。」と一言残して颯爽と空へと舞い上がった。 「どうして行かせたのです!?」 残されたシュンケはおばば様に詰め寄った。するとおばば様は困った子だねとあやすような優しい目でシュンケを見上げ 「ナーシャの事は諦めなさい。そなたがどんなにナーシャのことを愛していてもナーシャはその若者を愛している。」 「!!」 予想だにしなかったおばば様の言葉でシュンケの顔は瞬時に赤くなった。怒りではない、恥ずかしさで、だ。 「なっ、何を言うのです!?私はナーシャの事など何とも思っておりません。私はただ一族の為を思って!」 図星をつかれたのかシュンケはかなり焦っている。おばば様はやれやれとひとつため息をつくと 「一族の為を思うのなら尚更行かせなさい。」 意味深な事を言い放った。 「・・・どういう意味ですか。」 シュンケは腑に落ちない。だがおばば様はそれには答えず静かに歩き出した。それにつき従うシュンケ。すると向こうから若い女性がやって来た。腕の中に大切そうに赤ちゃんを抱えている。女性はシュンケ達の存在に気づいた 「おばば様、シュンケ、こんばんは。」 にこやかに挨拶をした。ジョリーナだ。腕の中の赤ん坊はすやすやと幸せそうに眠っている。 「こんな遅くに出歩くとは感心しないねぇ。」 おばば様がチクリと釘を刺した。 「あら、まだ夕刻ですわ。それに夕食の支度で野草を摘んできたのです。」 そういえば肘には籠もかけられている。 「気をつけて帰りなさい。」 シュンケが言うとジョリーナはにこっと微笑み 「おやすみなさい、おばば様、シュンケ。」 赤ちゃんを労わるように静かに歩き出した。その背中を優しく見守る二人。するとおばば様が突然切りだす。 「あの赤ん坊、ロンは目が見えないのを知っているだろう?」 「はい・・・。もちろん知っています。」 「生まれつき目が見えない。それだけではない。ここ数年で一族の間に生まれた赤ん坊は六人。しかしそのうち四人が何かしらの問題を抱えておる。」 おばば様の指摘にシュンケはハッとした。 「ロンは翼があるが目が見えぬ。コンサは翼が全く開かない。リースは右翼が変形している。ジュノンは片方の翼しか持たぬ。…我々はなんとかわいそうな事をしたのであろう。」 おばば様は痛ましい表情で呟いた。
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