チューブを物珍しそうにつまみながらカリンに聞くがカリンは何も答えない。 「空ばかり描いているから青色の絵の具の減りが他と比べて早いんだよ。またトーマスに何十個も買ってきてくれと頼むんだろう?トーマスもいい迷惑だよな。」 厭味ったらしく言ってカリンの反応を待つがカリンは相変わらず黙ったままだ。ルシアはそれが何かしら心に引っ掛かったがそれ以上はたいして気にも留めず 「じゃあ、また来るわ。」 「来なくていいよ。」 カリンがすかさずそう答えるとルシアはぷっと吹き出した。どうやら来なくていいと言われるのを期待していたらその通りになってしてやったり、満足したらしい。 「来なくていいと言われたから、お望み通りまた来るよ。」 全身にからかいオーラを滲ませながらルシアは家を後にした。カリンは一つため息をついた。そして深刻な顔で何やら考え込んでしまった。
この時ルシアは気が付かなかった、カリンが何を考えているのかを。
西の空が少しずつ消灯し始め、紺色の風が流れゆく雲を時折揺らす頃。ナーシャは大事そうにバスケットを抱え今まさに飛び立とうとしていた。 その時だ。 「ナーシャ。」 低い声がナーシャを呼び止める。ナーシャは気まずそうに振り返った。 「何度言ったら分かるのだ。あの男の元へ行くのは止めろと何度言ったら!」 非難を含んだ険しい声。 「でも・・・。」 「でもじゃない!」 シュンケがナーシャににじり寄るとナーシャはにじり寄られた分だけ後ずさりした。それを見たシュンケの胸の奥がひりひりと痛んだ。 「お前が行方不明になった時、皆がどれ程心配したのか分からないのか。お前の愚かな行動が一族の命を危険な目に合わせたかもしれないんだぞ!!」 「人間に見つからないように細心の注意は払っているわ。それにシュンケだって山を下りているじゃない!!」 ナーシャも負けていない。何がナーシャをここまで意固地にさせるのだろう、いや元からナーシャは意固地だけども・・・。ナーシャの胸の内を知りたいような知りたくないような、シュンケのイライラは募るばかりだ。 「それが甘いと言っておるのだ。人間に見つからない保証などどこにもない!」 シュンケはナーシャの腕をとり連れ戻そうとするがナーシャはそれを振り払った。その瞬間、シュンケの胸に鋭く透明な悲しみの刃が刺さった。 「・・・っ。」 「シュンケは臆病者よ!」 ナーシャが突如叫ぶ。シュンケの顔色が見る間に変わった。怒れる炎に油を注いだのは間違いない。 「私のどこが臆病者だというのだ。」 シュンケは怒りで震える心を宥めながら聞き返すが 「臆病者じゃないの。人間を恐れ人間から逃れるように暮らして一生を終える。ずっと逃げてばかりじゃない!でもジャノは違うわ。自分を馬鹿にする人達から逃げたりしないもの!」 ナーシャの言葉にシュンケは思わず押し黙ってしまう。 「それにジャノは一生懸命翼を作っている。私たちを人間から解放する為に必死で頑張っているの。私はその手助けがしたい!!」 訴えかける真っ直ぐな眼差し。
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