仲が良いと言えないこともない。もっともルシアがからかい、カリンがそれに反論するという形に終始しているが。ルシアは柔らかそうな天然パーマの頭を掻きながらカリンの傍に立った。 「何しに来たの?」 面倒くさそうにカリンは尋ねた。 「別に用なんてないけど?暇だから来ただけ。」 ルシアはお構いなしだ。 「他にやる事ないの?」 「こんな村にいてもやる事なんてないじゃないか。畑仕事、ポクールの実の収穫、たまに飛んでみたと思ったらこの村の上をうろちょろするだけ。これじゃあ体も鈍るよ。僕はどこへでも行けるのにどこにも行くなってさ。」 ルシアは口を尖らせて愚痴る。そして「こんな立派な翼があるのにさ。」と翼を広げてみせた。 「こんな狭い所でそんなものを広げるなよ。」 迷惑そうにカリンが言うと 「悪い、悪い。でもカリンもたまには広げてみたくなるだろう。あっ、でも広げるものがないか。」 からかうようにカリンの背中を見た。全くこの男は悪気があるのかないのか、いつも余計な事を言う。だがいつもの事だからとカリンは気にも留めない。 「そんなに飛びたいなら飛べばいいじゃん。要は人間に見つからなければいいのだから。」 「それが許されるならね。でもシュンケに見つかったら大変だよ。人間よりも酷い目に合わされるかも。」 ケラケラ笑いながらルシアは言い返した。 「・・・。」 カリンは黙ったままだ。するとルシアは思ってもみないことを口にした。 「もっともナーシャはそれをやっても怒られただけで済んだみたいだけど。」 「!!。」 カリンは驚きのあまり絵筆を落としてしまった。 「ど、そうしてそれを!?」 動揺して聞き返してくるカリンを見てルシアは満足そうに、にやっと笑う。 「立ち聞きしちゃった。」 「立ち聞き!?」 「昨日ここへナーシャが来てカリンに謝っていただろう?偶然立ち聞きしちゃったんだ。」 悪びれもなくあっけらかんと言うルシアにカリンは心底呆れた。全く油断も隙もない。 「あっ、誤解しないでよ。あくまで偶然に聞いてしまっただけだから。それにこの事は誰にも言わないからさ。」 それを聞いて勝手にしろと思うカリン。 「しかしさ、ナーシャはシュンケのお気に入りだからそれだけで済んだけど僕が同じことをしたら半殺しの目に合うよ。」 やってられないよなとばかりに、はっはっはっと乾いた笑いをみせた。 「でもシュンケは僕たちの事を考えて厳しくするんだよ。一族を滅ぼすよりはずっとましだろう。」 ルシアはカリンに忠告され、それはそうだけどと肩をすぼめた。その時ふと、そばにあった青色の絵の具のチューブが目に入った。尻からまくれあがって口の方までくるくると丸まっている。絞りに絞り切った感じだ。 「これもうないよ?いい加減新しいのおろせよ。買いだめしているのがあるんだろう?」
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