このままではジャノは倒れてしまうのではないか。かといって家に帰ってともいえない、ジャノと離れるのが嫌だから。 「ありがとう、とても美味しかったよ。」 ジャノは食べ終わると丁寧にバスケットを返した。美味しかったと言われナーシャの心は小鳥のようにはしゃぐ。ジャノは満足そうにお腹をなでると早速、元の作業に戻った。なんでもないような顔をしているが内心はナーシャが傍にいてくれることの喜びで満ち溢れている。 ナーシャはジャノの傍らにいてずっと他愛のない事を話した。時折、会話が途切れることもあるがそれはジャノが作業に没頭している時だ。そんな時はナーシャはジャノの真剣な横顔をじっと見つめていた。 いつしか陽は傾き二人の影が色濃く伸びていく。ナーシャは名残惜しげな気持ちを滲ませながら 「そろそろ行くね。」 別れの挨拶をした。ジャノの手がふと止まる。瞳に浮かび上がる悲しみの色。離れたくないのにそうとは言えない、空族と人間の許されぬ恋。 「気をつけて帰って。」 ジャノは何とか声を絞り出したが、ナーシャは当たり前のような顔で 「また来るね。」 「え?」 「これから毎日ここへ食事を運んでくるわ。」 「!!」 ジャノの心が先ほどまでの悲しみが嘘のように勢いよく明るく弾みだした。 「ありがとう。でもそれなら来る時も気を付けて。こんな所でもいつ人間が現れるとも限らないから。」 ジャノが心配そうに言うとナーシャは可笑しそうに笑った。 「危ないと思ったら空へ逃げるから大丈夫よ。」 そう言って茶目っ気溢れる瞳で空を指差す。 「あっ、そうか。」 ジャノは頭を掻いた。ナーシャは後ろ髪を引かれながらも山へと帰って行った。ジャノは小さくなっていくナーシャの姿を見送りながら早く翼を完成させなければ!と決意を新たにした。
ここは空族の村。険しい山肌に奇跡のように広がる平地にその村はあった。手作りの丸太小屋が二十数棟並んでいる。その棟の一つにカリンの家があった。一人キャンパスに向かい黙々と絵を描きつづけるカリン。 トントン。扉を叩く者がいる。 「どなたですか?」 「空族のアイドルさ。」 陽気な声が返ってきた。それだけでそれが誰なのかカリンには分かった。そんな事を言うのは一人しかいない。 「ルシアか、何の用?」 カリンは中へ入れと促す。ルシアは家へ入ると早速 「相変わらずだな、一日中描いていてよく飽きないよな。」 ルシアはあきれ顔で言った。カリンはそれを無視して描き続ける。それがルシアには面白くないのか 「そんなに一生懸命描いても飛べる様にはならないぜ、その翼じゃ。」 ルシアがからかうように言うがカリンはあっそと一言だけ返して描き続ける。ルシアの口の悪さには慣れっこだ。ルシアは同い年のカリンになにかと絡んではその反応を見て面白がっている。
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