失われかけていた殺気がシュンケに蘇った。握っている剣に再び力を込める。 その時だ。突然ジャノが何事か呟いた。 「・・・いかない。」 「・・・?」 シュンケは訝し気にジャノを見下ろしナーシャは何事かと心配そうに耳を澄ませた。 「死ぬわけにはいかないんだ!!」 ジャノが叫んだ。まるで世界中に宣戦布告するかのように。 「ここで死んだらナーシャを自由にしてあげられなくなる!」 「・・・。」 何のことか分からず眉をしかめるシュンケとナーシャ。しかしジャノはそんなことはおかまいなしだ。それどころか 「僕は発明家だ。翼を作っている。その翼を完成させるまでは何があっても死ぬわけにはいかない!」 「翼を作っているから何だというのだ。」 「機械で翼を動かすんだ。これが成功すれば誰もが自由に空を飛べるようになる。そうすれば空族の血も翼も必要なくなる!」 「何が言いたい。」 より一層眉間の皺を深くしたシュンケが鋭い眼光で問いただす。 「空族の血も翼も必要なくなれば空族は自由になれる。だってもう狩られることがなくなるんだから!」 シュンケもナーシャも唖然とした、何という果てしない夢物語をほざくのだろうと。しかしジャノはそんな二人の疑念を気にもかけない。 「僕は決めたんだ。ナーシャを自由にすると。好きな時に好きなだけ空を飛べる。どこへだって行ける。ナーシャを・・・あなたたちを自由にすると決めたんだ!!」 ジャノの一欠けらの迷いもない真剣な叫びはまるで火であぶられた鉄くぎのようにナーシャの心に熱く深く打ち込まれた。もう今ここで死んでもいいと思うくらいに。 「そんな事が出来るわけがない!」 吐き捨てるようにシュンケが言う。だがジャノは 「僕は発明家だ。他の人には出来なくても僕には出来る!」 何と自信に満ちた目をしているんだろうとシュンケは思った。ナーシャは何かを思い出したように駆けだしすぐに荷車からジャノの翼を取り出してきた。 「これを見てシュンケ!ジャノが作っている翼よ。ジャノの言葉に嘘はないの!」 ナーシャが泣きながら必死で訴える。なるほど、空族の翼によく似ている。何やら変な箱のような物がついてはいるが。 シュンケの心の奥底に今まで感じたことがない正体不明の波が立つ。 だがそれでもやはり 「こんなもの!!」 シュンケは一蹴した。その目は侮蔑を微塵も隠そうとしもしていない。だがジャノは折れなかった。 「今はこんなものでもいつか必ずあなたたちを自由にするものだ!」 ジャノの信念溢れる瞳と疑心暗鬼しかないシュンケの瞳がぶつかる。バチバチと散る火花。一触即発だ。 そんな中、ふとシュンケの頭の中に一人の人間の顔が思い浮かんだ。 もしかして今、目の前にいるこの男はあいつとは違うかもしれない。この男なら本当に・・・。
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