・・・なんて立派な翼を持った空族だろう・・・。ジャノはいつしか恐怖も忘れてシュンケの翼に見とれていた。すると突然、ナーシャは覚悟したかのように唇を噛みしめシュンケの元へ走り寄った。 「ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!」 ナーシャは思いっきり頭を下げ謝っている。その声は涙声だ。ジャノはナーシャのただならぬ姿を見てこの男は只者ではない、おそらく空族のリーダーだと確信した。 シュンケはおもむろにジャノに向かって歩き出す。そしてジャノの目の前に立ちはだかった。それを見たナーシャは何かを察したのかシュンケの腕にとりすがり必死でシュンケの名を呼んでいる。ジャノは直感で思った。 『殺される。』 人間に姿を見られることも空族の居場所を知られることも極端に嫌がっていたナーシャを見ていたら分かる。空族の存在は決して他に知られてはならない。もし知られたらその者の口を封じる。僕は口を封じられるんだ。でも・・・。 案の定、シュンケは腰にかかっている鞘から剣を抜いた。鋭く刃が光る。ジャノの体を駆け巡っている血は瞬時にして恐怖で凍りついた。 『でもこんなところで死ぬわけにはいかない!!』 ジャノは自分を奮い立たせるように心の中で己に言い聞かせた。 ナーシャと共にいるうちにある思いに駆り立てられるようになっていたからだ。ジャノは歯を食いしばり目の前の男を鋭い目で見やる。剣を持つ男はそんなジャノの気迫を感じ取った。 「戦う気か。見たところ丸腰のようだが。丸腰の相手を手にかけるのは気が進まないがやむを得ない。空族の為、お前にはここで死んでもらう。」 全てを両断する刃が高く振り上げられた。躊躇のない殺気が振り下ろされた瞬間、ナーシャが叫んだ。 「やめてシュンケ!!この人は!ジャノは私を助けてくれたの!!」 ナーシャの叫びにシュンケはハッとして剣を止めた。 「この人は命の恩人なの。だからこの人には何もしないで!!」 ナーシャは必死で懇願し大粒の涙を流しながらシュンケの腕をつかみ剣を納めさせようとする。ナーシャの必死さに戸惑うシュンケ。動揺して剣先が鈍ったのがジャノにも伝わった。しかし、その戸惑いを振り切るかのようにシュンケは 「どかぬかナーシャ!!この者は我らの姿を見た。そんな者を生かしてはおけぬ。それはお前にも分かっているだろう。」 低い声が雷鳴のように響く。それでもナーシャは一歩も引かない。 「ジャノは私たちの血にも翼にも興味がないの。だから他の人間にも絶対話さないわ。信じてシュンケ。ジャノはいい人よ!」 「信じろなんて簡単に言うな!お前はわ・・・。」 そこまで言いかけてシュンケは黙ってしまった。 お前は忘れたのか、あの時のことを。そう言いかけて、でも言わなかった。ナーシャの瞳からとめどなく涙が溢れてくる。そんなナーシャの姿を見るにつけシュンケの瞳から鋭さが薄れていった。それどころか悲しみさえ感じさせるほどに。 「私がいけないの。私が一族の掟を破って身勝手なことをしたから。」 一族。この言葉を聞いてシュンケはハッとし、我を取り戻した。 一族の為・・・。
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