「大丈夫?疲れていないかい?」 「疲れていないわ。」 荷車の中から返事をする。じっと横たわっているだけだから疲れるはずがないのだがジャノが気遣って声を掛けてくれる事がたまらなく嬉しい。 田園風景を抜け、林をくぐり、浅い川を渡り、荷車は止まることなく静かに進んでいく。 「こっちの方向でいいのかい?」 「えぇ、このまま北へ向かって。」 太陽は空の一番高い所まで昇り、世界を洋々と見渡している。 どれくらい飛んできてしまったのだろう。そんなに遠くまで来てしまったのかな・・・。ナーシャはぼんやりとそんな事を考えていた。 すると突然、荷車が止まった。ガコンと揺れる荷台。何やら人の声が聞こえてくる。 「やぁ、ジャノ。こんな所で会うなんて奇遇だな。」 「・・・やぁ、ボノ。」 ジャノのあまり嬉しそうでない声も聞こえてくる。相手はボノという男らしい。ジャノが「先を急いでいるんだ、じゃあな」と一言断りを入れて早々に立ち去ろうとする。だがそうは問屋は降ろさなかった。ボノは荷馬車の前に立ちはだかり 「何をそんなに急いでいるんだ?どうせまたくだらない発明品を持って行商しているんだろう。どれ、見てやるか。」 ボノはからかい半分、好奇心半分の顔で荷車に近づいてきてシートに手をかけた。 「「!!。」」 ジャノとナーシャの心臓が大きく波打つ。ジャノは慌ててボノの腕をつかみ制止した。ナーシャは体をもっと小さくしてなんとかしてこの場をやり過ごそうと息を潜めた。 「何だよ、ジャノ。いつもは頼みもしないのに自分から作品を見せてくるくせに。」 ボノは訝しげにジャノを見る。 「先を急いでいると言っただろう。また今度にしてくれ。」 ジャノが構わず行こうとしたその時だ。突如、ボノがジャノが持っている手綱を強引に引いた。馬は突然のことに驚いていななきながらもかろうじて止まった。 「何をするんだ!!危ないじゃないか!」 ジャノは驚きそして怒った。だがボノは疑い深い目でジャノを見つめながら 「お前、もしかしてとんでもないものを発明しちまったんじゃないだろうな。どれ見せてみろ!」 ボノは乱暴にシートをめくろうとする。ナーシャの心臓は緊張のあまり張り裂けそうになった。 「触るな!!」 突如、ジャノが怒鳴った。もの凄い形相で睨むジャノにボノは焦る。こんな怖い顔をしたジャノを見るのは初めてだった。いつもは何を言われても飄々としているジャノがこんなに感情をむき出しにして怒るなんて。 「な・・・何をそんなに怒っているんだよ。」 ボノはジャノを宥めようとおどけた顔で近寄るがジャノの怒りは一向に収まらない。ボノはジャノに睨まれるにつれ次第に腹が立ってきた。いつもいじめていた相手から思わぬ反撃をくらった気分だ。ボノは突然逆切れする。 「お前のくだらない発明品を一つぐらい買ってやろうと思っていたのによ!お前なんか一生使えないものを作り続けたままくたばっちまえ!!偽発明家め!!」
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