「皆に伝言を頼む。『ナーシャが東の山肌で怪我をして動けないでいるところをおばば様が見つけた。シュンケが救出に向かっているから皆は安心て家に戻るように』と伝えてくれ。おばば様には話を合わすように私から伝えておく。」 カリンはそれを聞いて驚愕した。 「皆には本当の事は伝えないの?」 嘘をつくのは不安だ。 「皆に余計な心配をかけたくない。それにナーシャが人里に行ったと知れば皆パニックになるだろう。」 シュンケは当たり前のようにそう答えたがカリンは嫌な予感がして焦り始める。 「まさかシュンケもナーシャを探しに人里に下りるの!?それは駄目だよ!!シュンケがいなくなったら皆どうしていいか分からなくなってそれこそパニックになるよ!」 「心配するな。いつもの河岸まで行ってくるだけだ。だから皆には家に戻っていいと伝えてくれ。」 「・・・!」 シュンケの有無を言わせない真剣な眼差しにカリンは反論出来なくなり仕方なく要望を受け入れた。 カリンは皆の所へと走っていく。そんなカリンの後姿を見送ったシュンケはおばば様の所へと向かう。その顔はカリンに見せていた冷静なものとは一転して怒りで満ちていた。握りこぶしは震えている。顔は怒りで真っ赤だ。 だがこの怒りは決してカリンに対してではない、自分に何の相談もせずに勝手に人里に下りたナーシャに対してだ。カリンから本当のことを聞いた時は心臓が止まるくらいに驚いたし動揺もしたが、申し訳ないとひたすら恐縮するカリンの手前、その怒りと動揺を押し殺した。 「ナーシャ!お前という奴は!!」 シュンケは収まらない怒りと心配で震える心を必死で抑え、おばば様につじつまを合わせるように頼み込んだ。おばば様というのは空族一番の長老だ。頭領であるシュンケさえ頭が上がらない。 事情を知ったおばば様は最初こそ驚いたがすぐに状況を飲みこんだ。おばば様もまた、ナーシャならやりかねないと心のどこかで覚悟していたのだろう。 おばば様の了解を得たシュンケはナーシャを探しに飛び立つ。カリンには河岸までと言ったが本当はそれ以上遠くまで行くつもりだ。 恐ろしい程の速さで山肌に沿って下降していく。
出発の時間は整った。ジャノはナーシャに荷車に乗るように勧める。全く気乗りがしないナーシャだがとりあえずジャノが差し出す手をとって荷車に乗り込んだ。ジャノは私と別れるのは平気なのかな・・・。そう思うとたまらなく悲しくなったし、私ばかりと腹も立った。ナーシャは仕方なしに横たわる。その時、試作品の翼が三つも乗っていることに気づいた。何やらズタ袋も乗っている。 「この袋はなに?」 「あぁそれは水と工具と多少の食糧が入っているんだ。道中何が起こるか分からないからね。備えあれば患いなしだよ。」 ジャノはそう答えるとシートに手をかけた。 「被せるよ。」 「うん。」 ナーシャが頷く。ジャノは荷台全体にシートを被せると徐に従者の席に座り荷車を引く馬に合図を送った。馬は手綱に応えゆっくりと動き出す。ギシギシと車輪が軋む。辺りを注意深く見渡し他に誰もいないと分かると早速ナーシャに声をかけた。
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