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作品名:空族と発明家ジャノの翼 作者:空と青とリボン

第13回   13
「お腹すいただろう?食事にしよう。」
ジャノはそう言って台所に消えていく。
人間が作ったものを食べるなんて空族にとってはあり得ないことだ。食べ物の中に毒や睡眠薬が入っていないとも限らない。でもナーシャは思った。ジャノがそんなことをするはずがないと。ジャノを信じようと。
 ジャノの手料理はとても美味しかった。体は温まり、体力も完全に戻った。お腹もいっぱいになったしそろそろ帰らないといけない。ナーシャは目の前のジャノを見た。ジャノは穏やかな表情で当たり前のようにそこにいる。ナーシャの胸が締め付けられる。ふと、ジャノとナーシャの瞳が合った。するとジャノは
「すっかり夜になってしまったね。夜は危ないからもし良かったらここに泊って行ったら?」
思いもよらないを言い出した。ナーシャはびっくりしてまじまじとジャノを見つめる。本当のことをいうと夜に移動する方がリスクが少ないのだ。闇夜にまぎれて飛ぶ方が人間に見つかりにくい。だから今回も夜に空族の村を脱出すれば良かったのだがあえてそうしなかった。どうしても青空の中を飛びたかったのだ。明るい日差しに照らされた風景が見たいからカリンに無理を言って夜ではない時間を選んだのだ。そして、今もまた、夜を選べないでいる。
それは少しでも長くジャノと一緒にいたいから。ナーシャは迷いながらもジャノの申し出を受けた。ジャノは大喜びをして今にも飛び上がらんばかりだ。ほっとしているようにも見える。
ナーシャもジャノも相手の気持ちを知らずとも自分の胸の内で別れたくないと願うばかり。一分でも一秒でもいいから長く一緒にいたい。
そう、この日、ナーシャの人生に初めて恋の灯がともったのだ。儚いながらも消せない恋の灯が。食事の後、二人は他愛もない会話をした。時計の針はもう零時を指している。ジャノは
「そろそろ眠ったほうがいいね。寝室に案内するよ。」
優しく微笑みながら言った。ナーシャの鼓動の速さは高止まりしたままだ。

「じゃあ、おやすみ。」
ジャノはナーシャをベッドの前に案内して部屋を出て行こうとする。
「えっ、ジャノは?」
ナーシャは驚いて思わず聞き返してしまった。
「僕は向こうの部屋のソファーで寝るよ。おやすみ。」
ジャノはナーシャに何も言わせないまま部屋を出て行った。一人残されたナーシャ。別に何かを期待していたわけではないが・・・。いや、心のどこかで何かを期待していたかもしれないが。複雑な思いを抱いたままベッドに潜り込んだ。人間のベッドで寝るなんてもちろん初めてのことだ。思えば何もかも初めてづくしの今日だった。ジャノの香りがするような気がしてなかなか寝付けない。何度も何度も寝返りを打つがその度にジャノの香りが濃くなる。


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