「何だと!?」 男たちはジャノの挑発に憤慨した。だがジャノは全く意に介せず。男たちはやがて呆れ果て、さすがにもう関わりたくないと思ったのか。 「紛らわしいことするんじゃねぇよ!この変人が!!」 怒りの捨て台詞を吐いてその場から立ち去っていった。 男たちの姿が完全に見えなくなったのを確認したジャノはナーシャに手を貸し助け起こした。起き上るナーシャの瞳とジャノの瞳が真正面からぶつかる。その瞬間、ナーシャの心臓が大きく波打った。 「怖い目に合わせてごめんね。もう大丈夫だよ。」 「・・・助けてくれてありがとう。」 今まで人間が自分たちにしてきたことを思えば人間に感謝なんてしたくもなかったがこの人は命を救ってくれた。そのことには感謝しなければならないと自分に言い聞かせありがとうととりあえずいってみた。 「人として当たり前のことをしたまでだよ。」 ジャノは優しい笑顔でそう言った。当たり前のことをしたまでだという言葉、優しい笑顔、その一つ一つに触れるたびにナーシャの胸は鼓動を速めた。するとジャノはナーシャの翼をじいっと見つめ 「でも凄いや!本物の翼はやっぱり違うね。」 何の下心もなく無邪気に感激している。しかし、ナーシャはその言葉を聞いた途端警戒しだした。そしてとても悲しくなった。この人も他の人間と同じなのか、と。 ナーシャの警戒心はすぐにジャノにも伝わった。ナーシャの体が小刻みに震えているのが見て取れる。ジャノはナーシャの警戒心を解こうと試みた。 「僕は空族の翼には興味がないんだ。興味がないというと嘘になるけど、どういう構造になっているかを知りたいだけで空族の翼を欲しいと思ったことは一度もないよ。」 ジャノは優しい笑顔で説明するとナーシャはほっとした。そしてこの人は他の人間とは違う、根拠なんて見つからないけどそう思えてきた。 ジャノは誇らしげに自分が作った翼を見せ 「この翼を完成させて僕は自由にどこへでも行ってみせるんだ。僕は空族の翼も血もいらない。僕にはこの翼があるからね。僕は僕の翼であの空を飛んでみせる。」 ジャノの揺るぎない信念にあふれる瞳。ナーシャは高止まりする胸の鼓動に戸惑いながらもジャノを見つめずにはいられなかった。 雨はいつしか上がっていた。ジャノがふとナーシャの体を見ると先ほど不思議に思った青い部分は元々のものではなくて何かで塗ったものだと気づいた。まるでペンキか絵の具で塗ったような・・・。そして何となく自分の手の甲に降ってきた青い雨を思い出した。何かそれと関係ありそうな気がしてくる。すると、ナーシャが寒そうに身震いをした。それを見たジャノは 「すっかり雨に濡れちゃったね、僕の家が近いから少し休んでいきなよ。体を乾かすといいよ、風邪引くといけないから。」 ジャノの突然の申し出にナーシャは心底驚いた。そして再び警戒心を募らす。いくら先ほど助けてくれたからといってまさか空族の自分が人間の家に行くとは考えられない展開だ。ジャノはその警戒心にも、もちろん気づいた。
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