「何のつもりだ。」 地を這うような男の低い声。 だがジャノはあまりに予想外なことを言ってのけた。 「この人は空族ではないよ。」 男たちはジャノの言葉に唖然とする。しかしすぐに気を取り直し 「何を言っている!その女には翼があるではないか。どこからどう見ても空族だ!!」 憤慨しながら問いただすと、ジャノは尚、平然とした顔で嘯く。 「この人は僕の実験に付き合ってくれただけですよ。僕が作った翼が本当に使い物になるか試してもらったんだ。空族と間違われるなんて僕の才能も捨てたもんじゃないな。」 しかし男たちもそう簡単には騙されない。 「実験だと!?そんな嘘が通用するとでも思っているのか!」 「本当だよ。じゃあこれ見てよ。」 ジャノはそう答えると近くにあった荷車からごそごそと何やら取り出してきた。 翼だ。それも空族の翼とよく似た翼。しかしよく見ると翼の根元には箱らしきものがついていて、それを背負う形になっている。本物としっかり見比べれば空族の翼とは明らかに違うことが分かるがナーシャはジャノの背中に隠れていて男たちからはよく見えない。ジャノは自慢げに自分が作った翼を男たちの目の前につき出し、ご丁寧にも翼を一振り、二振りとはためかせて見せた。突然のことにきょとんとする男たち。 「申し遅れました。僕は発明家ジャノ・フリークス。そしてこれは僕が発明した空飛ぶ翼です。」 ジャノの表情はいたって誇らしげだ。 「空飛ぶ翼だと?馬鹿馬鹿しい。いいからこちらにその女をよこせ!!」 男の一人が腹立だしげに言うが、もう一人の男は黙ったままだ。そして何かを思い出したのか 「こいつ見たことがあるぞ。町で発明品を見せて回っていた。使えない発明品ばかり作って、変人とのもっぱらの噂だ。」 するともう一人の男もその言葉で思い出したのか 「あぁ、そうか。だからどこかで見たことがある顔だと思っていた。あの変人か。」 ジャノは男たちの興味が空族から自分に移ったのを感じ取るとさらに畳みかける。 「空族というけど、もし本当に空族だったらとっくに飛んで逃げているよ。それともこの人が飛んでいる所でも見たのかい?」 「それは・・・。」 男たちはジャノの質問にたじろぐ。そういえばその女、どんなに追われても飛んで逃げようとはしなかった。飛んで逃げるのが一番手っ取り早くて確実なのにそうしなかったということは・・・。男たちは女を見た。女はただ怯える様な目でこちらを見るばかり。 「でもその女、必死で逃げていたぞ。空族でなかったらなぜ逃げる。」 男の一人が痛いところをついてきたがジャノは飄々と言ってのける。 「あなたたちみたいな怖い顔した男に追いかけられたら誰だって必死に逃げますよ。」
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