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作品名:空族と発明家ジャノの翼 作者:空と青とリボン

第1回   1
 険しい山々が連なる秘境地。人間は愚か、魔獣さえ寄り付かない森のその向こう、とある山の中腹に一つの種族が息を潜め、ひっそりと暮らしている。
その種族は人ならざる者、いや、人でありながら人として生きることを許されぬ悲しき運命を背負った種族であった。やがては滅びゆく儚い血。その種族の名前は「空族」
空族は生まれながらにしてその背中に翼を宿している。赤ん坊としてこの世に生を受けた瞬間から背中に翼を生やしている。その翼は成長と共に大きくなる。そしてやがて己の体を宙に浮かせる程の力を得るようになる。そう、あの大空を鳥のように自由に飛び回れるのだ。翼を持たない人間が憧れて止まない大空を自由に。
一方、人間は自分たちが持つことが出来ない翼に憧れ、それを得るための術を探してきた。そして辿り着いた答えは実に愚かなもの。実しやかに人々の間で語り継がれる噂。
それは空族の血肉を食すれば食した者の背中に翼が生え、空を自由に飛べるようになるという根拠のない噂だった。
しかし、その狂気の噂は噂で終わらない。人間は空族の血肉を食しようと空族を躍起になって探し、捕らえてはその胸に剣を突き刺した。時には首をはね、吹き出す血を盃にとり飲み干した。
だが、血を飲んだところで、肉を食したところで翼が生えるわけがなく、人間は空を飛べないままだ。
それなのに人間は空族を狩ることを止めなかった。血がまだ足りないだけだと思い込むだけ。そうして無意味に空族は狩られ続けその数を減らしていく。空族は絶滅の一路を辿る事になった。
それでも運命に抗い、人間に見つからないように山奥でひっそりと息を潜め生きながらえる空族。人間に見つかる前に逃げる。運悪く見つかった者は狩られる。そしていつしかこの世界に残った空族は老若男女全て含めてたったの五十五人となった。
 
 空族には厳しい掟がある。それは空を飛んではいけないということだ。だが、そうはいっても全く飛んではいけないという事ではない。自分たちの隠れ家の周り一キロ圏内なら飛んでも構わないという。しかしそれはそれ以上高く飛ぶな遠くへ行くなということ、飛んではいけないと言われたのも同じ。
籠の鳥ならまだましだ、檻があるなら諦めもつく。
しかし彼らの場合、空と自分を隔てるものは何もない、あるのは己に課した禁じだけ。無理やり自分に禁じるのだ、遠くへ行ってはいけないと。それがどんなに辛い事か。どこへでも自由に行ける大きな翼を持ちながらさして使う事もなく。小さな畑を耕し、高山植物の実を収穫し、数少ない動物を狩り、人間に見つからないように翼をたたんで寄り添うように生きる空族。

しかし、そんな空族にあってただ一人、どうしても空への憧れを捨てられない娘がいた。名前はナーシャ。年齢は十九歳。栗毛色の長い髪、背には美しい翼を持った瑞々しい少女。
毎日、毎日、光り輝く空を見上げ、まだ見ぬ風景への憧れを濃くしていった。今すぐにでも遠い空を飛んでみたい、自由に空を駆け抜けたい。その願いは大きく膨らみきってやがて限界を迎えた。
ナーシャはある日、重大な決意をする。


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