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作品名:奥様には秘密がいっぱい 作者:此道一歩

第2回   強引な一夜
その後、彼は彼女もできないまま時折、高島亜由美の笑顔を思い浮かべては、ため息をつき、だらだらと時間を過ごしていたが、二十六歳を過ぎた年明けの寒い日のことであった。
 突然、町長室に呼びつけられた友樹は、彼から一人娘の写真を見せられ、
「一度だけ会ってみてくれないか」と言われ困惑した。

 その娘、有友(ありとも)亜紀(あき)は友樹よりも二歳年上で、大学を卒業した後に大手証券会社に勤めていたが、理由があって地元に呼び戻したとのことだった。
 彼女については何度か噂を耳にしたことがあり、不倫のすえ捨てられたのだとか、中には子供までできていたのではないかという者までいて、そんなことを聞いていた友樹は
「自分は大学も出ていないし…… 」と断ろうとしたが
「有賀友助の孫である君なら、周囲の者も納得してくれるんだ。次の日に断ってもいいから、一度だけ頼むよ」と強引に迫られ、彼は不承不承、食事に出かけることを了解した。

 彼が話を終えて町長室を出ると
「おい、有賀、町長の娘と付き合って出世したいのかっ」
 秘書室の米田幸一が侮蔑の目を向けた。
「いや、そんなことは……」
「ふん、お前、高卒だろ、町役場だって学歴は関係あるんだぞ、変な欲、出すんじゃねーよ」
 意地悪くさげすんだような目つきが突き刺してくる。
「いや、そんなことは思っていないです」
「じゃあ、はっきりと断れよ」何故かこれまでとは様子が違って威圧的であった。

 この米田は、丸々市の出身であったが、父親が国会議員、滝宮善三の地元後援会長をしていた。将来息子にその地盤を引き継ぎたい滝宮は、地元の地ならしに懸命であったが、思い通りにならない春日町に苛々していて、そんな中、目を付けたのが後援会長の息子、米田幸一であった。
 滝宮は、「将来は現春日町長の跡取りにするから」と、米田を説得し、彼を春日町役場に送り込んだのであったが、いざ勤め始めてみると、あまりにも様子がおかしく、彼はこのまま一職員で終わるのか…… と焦っていた。
 そんな時、ふと町で町長一家に出くわし、その娘の美しさに驚いた彼は、ある日、町長に交際を申し出たのだが、いとも簡単に断られてしまい、プライドを傷つけられた彼は、悶々とする日々を過ごしていた。
 そんな中で、耳を澄まして町長室に集中していると、漏れ聞こえて来た友樹への話であったため、彼はその腹立たしさのすべてを友樹にぶつけてきたのである。

 そんなことを知る由もない友樹は、その週の金曜日、夜の六時、指定された隣町の和食の店、【華(はな)】で有友亜紀と向き合っていた。
 話してみると、決して噂に聞く女性のようには思わなかったが、美しく洗練された都会の女性を思わす彼女は気が強く、言葉をはっきりと口にするため、彼の心に残っている【高島亜由美】のイメージとはかなりかけ離れていた。

「親父に言われて、いやいや来たんでしょ」亜紀が微笑むと
「いや、そんなことは……」友樹は少し目を伏せた。
「正直な人ね、顔に書いてあるわよ」彼女の笑顔がとてもかわいい。
「そ、そんな…… 」
「いいじゃない、ここの費用は親父が払うんだから、御馳走だけ食べに来たって思えば……」
 肌は透き通るように白く、セミロングの髪は艶やかで、大きな瞳で見つめられた彼は頬を染めて俯いてしまった。
「有賀さんて……」
(この人、女性と付き合ったこと、ないの……)彼女がふと思った。
「は、はい、何でしょうか? 」顔を上げると、彼には、彼女が自分の背後の誰かに微笑んだような気がして、とっさに後ろを見たが、小さな個室の中では誰もいようはずがなかった。
「どうしたんですか?」亜紀がごまかすように尋ねたが
「いえ、なんでもないです」彼はまた目を伏せてしまった。
「大丈夫ですか?」
(なーんか、興味津々)彼女の微笑が友樹には不気味だった。

 彼女は小説を書いているらしく、すでに何冊も書籍化されていて、その収入は相当なものらしかったが、決してペンネームを明かしてくれず、友樹は少し疑問を持った。

「お酒は大丈夫ですか……?」食事を終えた頃、亜紀が微笑んだ。
「え、ええ、少しなら……」
「じゃっ、私の書斎で、少し飲みますか?」笑顔で誘われると、書斎という言葉に魅かれ
「は、はい……」彼は快諾してしまい、二人はそのまま彼女の車でホテルシーサイドへ向かった。
「こ、このホテルに書斎があるんですか?」
「ええ、出版社が、静かに仕事ができるようにって、ずっと借りてくれて……」
淡々と語る彼女に違和感は全くなかった。

 部屋に入った彼は
「売れっ子作家になると、すごいんですねー」感心して部屋を見回したが、彼女はテーブルに飲み物を用意すると
「ごめんなさい、ちょっとシャワー浴びてきますので、飲んでいてください」と言って優しく微笑んだ。
「は、はい……」

 女性と二人でホテルの一室にこもり、女性はシャワーを使っているのに、友樹は全く不自然さを感じなかった。
 
 脱衣所では浴室から出た彼女が髪を乾かすドライヤーの音が響き始めた。
 しばらくして出てきた彼女はバスローブをまとい、ほんのりと染まった頬がなんとも色っぽくて、一目見た友樹は鼓動がうちはじめ、すぐに目を伏せてしまった。

「あなたもシャワー浴びてきたら……」いとも簡単に語る彼女に
「なっ、だ、駄目ですよっ」友樹はつい語気を強めてしまったが
「えっ、いやらしい。何を考えてんのよ。外から帰って来たんだから、シャワー浴びないと……」彼女がさらっと流すと
「えっ、す、すいません」彼は慌てて浴室に向かった。

 彼がシャワーを済ませ身体をふき始めると
「部屋の中ではバスローブを使ってね」外から聞こえる彼女の声に
(だ、大丈夫か…… なんかおかしいぞ、でも、そんな感じじゃなかったけどなー…… ただのきれい好きなのか……? ) 
 そんなことを思ったが、しかし、浴室から出て部屋に戻った彼は、ベッドの中にいる彼女を見て心臓が止まりそうになってしまった。

 フットライトを残し、照明を消した彼女が
「女に恥をかかせないでね」優しく言い放つと
「で、でも、今日、会ったばかりなのに…… 」友樹の困惑は限界値に達していた。
「大丈夫よ、結婚を迫ったりはしないから…… 」彼女が眉をひそめると

(くそー、やっぱり噂通りの女なのか…… でも、こんな美人とただでできるんだったら……  待て、ただより高いものはないって、義姉さんが言っていたぞ、ううっー、 逃げるか……)
 葛藤がしばらく続いたが、美女を前にした若い彼が欲望に勝てるはずもなく、その夜は静かに過ぎて行った。

 友樹が賢者タイムに入ると、ベッドから静かに降りた彼女は浴室に向かった。
 帰って来た彼女と入れ替わりにシャワーを浴びた彼が帰ってくると
「ごめんなさい、ちょっと書きたいの、一人で寝てくれる?」
 彼には目も向けないで彼女はパソコンに向かい懸命にキーボードを叩いていた。

「う、うん……」彼はベッドにもぐりこみ、
(この女(ひと)にとってセックスは息抜きなのか、くそー、どうするんだ…… 変なことにはならないよな)
 欲望に打ちのめされてしまった彼は懸命に何かをつかもうとしていたが、しばらくすると、そんな不安も薄れ、初めて素人女性を相手にした彼は何故か幸せを感じて微笑んだ。

 翌朝の六時、彼はキーボードを叩く音で目が覚めた。
「ずっーと打ってたの?」彼が声をかけると
「おはよう」さわやかな返事が返ってきた。
「寝ていないの?」
「うん、こんなのはいつものことなのよ」
「ええっー、身体、大丈夫なの?」
「でも、もう……  お・わ・り・ま・し・た」
 彼女が振り向いて笑顔で微笑むと、彼はなぜかうれしかった。

 ベッドにもぐりこんできた彼女は
「私、これから寝るけど、どうする? 帰ってもいいし、二度寝してもいいし、駅はすぐそこだから」
 そう言うと、すぐに爆睡を始めてしまった。

 しばらくしてベッドから出た彼は着替えると、デスクの前に立ち
「どんな物語、書いてんだ……?」
 パソコンに指を伸ばしたが、「ダメダメ」そう思って部屋を後にした。


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