その翌週の木曜日、 『明日、何か食べに行きませんか? 今度は俺の車で…… 』 彼がメールを入れると 『ありがとうございます。喜んで』すぐに返事が返って来た。
イタリアンで食事を済ませた後、 「ねえ、飲みに行かない?」彼が誘うと 「えっ、いいですけど、車は大丈夫ですか?」彼女も嬉しそうだった。 「うん、場合によってはおいて帰ってもいいし」 彼は、彼女の身体の美しいラインがとても気になっていた。だから、とにかく彼女を抱いてみたいと思っていた。
先輩がやっている小さなバーのカウンターで話しながら、彼は何度も彼女の可愛さを感じて 「ねえ、この後、いい?」さらっと聞いてみたが 「えっ、いいですよ。でも、私、初めてなんですけど…… 」彼女が耳元で囁いた。
確かにそうかもしれない、付き合った男がいないのだから、初めてなのかもしれないと思ったが、彼には、信じがたいところもあって、とりあえずタクシーでベイサイドホテルに向かった。
彼女は間違いなく初めてだった。彼は少し驚いたが、賢者タイムに入ると 「ありがとうございました」彼女が天井を見つめたまま呟いた。 「えっ」彼が驚いて彼女を見つめると 「私、早く経験したかったんです。友達からは気持ち悪いって言われるし、歳をとるほど、相手は重くなってしまうだろうし、だから、とてもうれしいです」 「……」彼もお礼を言われたのは初めてで、言葉が出なかった。 「責任なんて感じないでくださいね」 「えっ」なんか訳が分からない。 彼は関係を持った後、重くなるのは覚悟していたのに、この奈津美のことがよくわからなかった。
( それにだいたい、誰でもよかったのか、経験したかっただけなのか? )
彼は頭の中がぐちゃぐちゃしたが、そのまま眠りについてしまった。 朝、目覚めると彼女の姿はもうそこにはなく、フロントに向かうと支払いも彼女が済ませていた。
家に返った彼は、彼女のことばかり考えていた。 「まさか、これで終わりってことはないよな……」ふとそんなことを思うと不安になって、 『ねえ、午後からドライブに行かない?』彼女にメールを入れた。 すると 『はい、喜んで』すぐに返事が返って来たので安心はしたが、なぜか不思議な感覚だけは残っていた。 『家まで迎えに行くよ』 『いえ、道が狭いので会社の駐車場で待ち合わせたいです』
駐車場で彼女を乗せた後、高速に乗ると、運転させて欲しいという彼女がハンドルを持ったが、なんと160km/hで走る彼女に、彼は足を突っ張って息ができなくなった。
(この女、本当にやばいぞっ! ) 彼は目いっぱいに目を見開いて、身動きできなかったが、10分ほど走ると、 「ああ、気持ちよかった!」今までに見せたことのないような笑顔に、彼はまた可愛いと思ってしまった。 そこからは通常運転に戻ったので、安心したが、彼女はそのまま、インターを降りると北に向かった。 「どこに行くの?」 「温泉です。北峡谷温泉です」 「へえー、そんなところがあるんだ」 「ええっ、有名ですよ。宿泊、取っていますから」 「ええっ、俺、そんなにお金持っていないよ」 「あっ、大丈夫です。私の大事なものを奪ってくれたお礼です」 「はあーっ!」 彼はもう訳が分かんなくなってしまった。
旅館に入ると 「お嬢さん、いらっしゃいませ」 品の良い女将らしき人が迎えに出てきた。 「お世話になります」奈津美が微笑むと、女将はとても嬉しそうだったが蒼汰はその高級感に驚いた。
部屋付属の露天風呂につかり、部屋に戻るととんでもない御馳走が出て来て、 「いくらかかるの?」彼は心配になって小声で尋ねてしまった。 「えっ、大丈夫ですよ。継母の知り合いの旅館なんで…… 」 彼女が微笑んだが、彼は女将の対応を思い出し、なぜか違和感を覚えた。
その夜、彼はなぜか彼女を抱いてはいけないような思いを持ってしまった。 なぜなのかはわからなかったが、それでもこのまま抱き続けてしまうと、彼女の可愛さが消えてしまうような不安に襲われ、彼は一歩引いてしまった。 そのため彼は、寝たふりをしてごまかしてしまったが、 (彼女はどう思ったのだろうか…… ) そんな不安は否めなかった。 しかし、翌朝、彼女は何もなかったように笑顔で接してくれたことで彼はとてもうれしかった。
それから、2ヶ月の間、食事に行ったり、飲みに行ったりして、彼は時折襲って来る彼女の可愛さを満喫したが、その一方で、彼女の可愛さを大事にしたいという思いがさらに強くなっていった。 その思いが、安易に彼女を抱いてはいけないような気がして、彼はどこか不思議なところにいるような錯覚を覚えた。
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