その半年後、20km離れた高速道路のインターチェンジに向けて、高速道路に準じる地域高規格道路の整備が始まり、山間をノンストップで走るこの道路は、素早く用地買収がまとまり、順次工事が進められるようになった。 この工事は公約のとおり、技術的に市内企業で対応できないものを除いては全てが市内の企業に設計単価から減額されることなく発注され、関係者はとても喜んだが、ただ、この工事が滝宮建設に発注されることはなかった。
危機感を感じた滝宮は、その年の12月定例議会、一般質問の中でこれを取り上げた。 「青山グループの道路整備については、地域のものとして感謝しているが、地元企業への発注があまりにも不自然である。1社が嫌がらせを受けているとしか思えない。市はこのことをどのように考えているのか」
契約事務は土木部の所管であったが、市が発注しているものではないこと、さらには今後の予算措置の問題もあることから 「今後のこともございますので、私の方から答弁させていただきます。ご指摘の、道路整備についての発注でございますが、青山グループに問い合わせをいたしましたところ、企業内に置いて、実績などから信頼のできる市内企業に発注していただいているとのことで、市内企業に発注可能なものについては、100%を市内企業に発注いただいていることを確認いたしております。また登録をいただいている市内企業にアンケートを実施いたしましたところ、1社を除いては、非常に満足していると回答をいただいています。以上、答弁とさせていただきます」と企画財政部長が答えると
「そんなことを言っているのではないですよ。1社だけ、のけものにされているじゃないですかっ、そのことをどう考えているのかと聞いているんですよ」滝宮が再質問に立った。
「再質問にお答えいたします。その1社にどのような事情があるのかは、存じませんが、青山グループに置いては、そのような評価をされているのだと考えざるを得ません。この事業は、全てを青山グループの資金で、青山グループの責任に置いて実施いただいているものであります。この会社のご配慮により、全てを市内企業に発注いただき、市内企業も受注したところは全てが喜んで納得されています。市に置きましては、これ以上のものはないと考えております」
「じゃあ、のけものにされた1社がどのようになっても、市は知らないというのですかっ!」 滝宮が顔を真っ赤にして再々質問に立った。
「企業の存続は、企業の営業努力によるもだと考えています。市が責任を負えるようなものではないと存じます。ただ、青山グループによりますと、その1社につきましては挨拶にも来ていないとのことで、一般的に考えれば、致し方ない面はあるかもしれませんね」
「あのね…… 」
「やめろ」 「見苦しいぞっ」 「公私混同するなっ」
傍聴席から罵倒を浴びせられた滝宮はそこで質問を終えて、席に戻ったが、 「議長」企画財政部長が再び手をあげた。
「企画財政部長」議長が指名した。
「今後のこともあり、誤解を招いてはいけませんので補足説明をさせていただきたいと存じます。先ほどの道路整備につきましては、青山グループが本市が進めます街づくり計画を実行するにあたって、その基礎となるインフラ整備から始めたものでありますが、来年度は、本市が予定をいたしておりました道路、水路、橋梁など、新設、改修等、全てが街づくりの根幹をなすもので、その整備が急を要するとの観点から、元来、本市が行うべきものも、青山グループの資金によって整備が行われることとなっております。そのため、その業者選定に起きましても、青山グループの責任のもとで実行され、本年度と同様の市内企業への発注が行われるように伺っておりますのでご理解賜りたいと存じます」 登壇した企画財政部長がそう説明すると、場内から大きな拍手とどよめきが起きた。
しかし、ただ一人、滝宮だけが苦虫をつぶしたような顔をしていた。
議会終了後に、企画財政部長室を訪ねた滝宮は 「今までの敵討(かたきう)ちのつもりかっ!」顔を真っ赤にして叫んだ。
「人聞きの悪いことを言わないでくださいよ、全て青山グループの考えによるものですから……」
「ふざけるなっ! 何とかしろっ!」
「そんな脅迫みたいな言い方をしないでくださいよ」
「覚えていろよっ、絶対にこのままじゃ済ませないからなっ!」
その後、滝宮は定例議会の度に、あの手この手をつかい、当局に襲いかかったが、もう彼を本気で相手にする者はだれもおらず、彼はそのたびに恥の上塗りをするだけであった。
1年後には会社をたたまざるを得なくなり、その2年後、久しぶりの市議会選挙が行われ、定数16に対して18人が立候補したこの選挙で、周囲の反対を押し切って立候補した滝宮はぶっちぎりの18位となり、議員の職を退くこととなった。 全てを失った彼は、地元を離れ、かつての妻を頼ったが、そこでも相手にされず、その後の彼の行方を知る者は誰もいない。
一方、1年後、二回生になった信也は、医師を目指して転学し、その同じ春、中田亜紀は青山亜紀となって、亡き信一の両親と東京で暮らすため上京してきた。
全てがおさまるべきところに納まって、亡き信一の両親は、70歳を前にして訪れた幸せな日々をかみしめて余生を楽しんだ。
しかし、1年経った今も、信也は山城梓のことを忘れることができず、子どもみたいに見える周囲の女子大生とは、とても付き合う気持ちにはなれなかった。 無理やり理由を考えては、彼女を呼び出し、強引なデートに仕立てようとしたが、そのたびに彼女に叱られ、未だ男にはなっていなかった。 それでも彼は諦めることなく、今日も彼女にメールを入れていた。
『明日、時間がありますか、相談したいことがあるんです』
『明日も、時間は24時間ありますよ。私はデートで忙しいけど……』
こんなお決まりのやり取りが続いていた。
後書き
最後までお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。 ちょっとシンデレラボーイを描いてみたくて、こんな物語になってしまいました。 普通の方であれば、議会の状況など、わかりにくいところが多々あったものと思います。 読み苦しい方がいらしたら、ご容赦下さい。
|
|