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作品名:時空のはざまより2 作者:光石七

第8回   ミッション・ニャンポッシブル【テーマ:テーブルの上】
 まひるちゃんは優しいけどママは少し怖い。柱や障子で爪をといだり机や調理台に乗ったりしたら大目玉だ。でも、このミッションを遂行しないと僕は一人前のぬこレンジャーになれない。ママが自分の夕飯をテーブルに並べてる。僕はおかずのサンマを横取りする機会を窺っていた。

 この町で悪の組織『ダークラッツ』と戦う『肉球戦隊ぬこレンジャー』。元は『ぬこホワイト』こと白玉さんと『ぬこブラック』こと墨丸さんのコンビだ。二匹に憧れてた僕も『ぬこブラウン』として仲間入りしたけど、二匹は気が向いた時だけ戦うスタンスで……。
「ニャンチ・クラッシュ!」
 僕がバッタ相手に訓練してても、指導を頼んだはずの二匹は欠伸や居眠りに忙しい。
「白玉さん、墨丸さん! 見てます?」
「その名前で呼ぶんじゃねえ!」
 寝てたはずの白……ホワイトがカッと目を開け怒鳴る。苦笑するブラック。
「茶太郎、俺はどっちの名前でもいいけど、ホワイトは気遣ってやれ。トラウマが深いんだ」
「すみません。……あの、も一回やるんでアドバイスください」
「しょうがねえな」
 やっと二匹に技を見てもらえた。
「やるじゃないか」
 ブラックは褒めてくれた。でもホワイトは渋い顔だ。
「子供の遊びだ、気迫を感じねえ。……お前、普段甘やかされてるだろ? 寝床もエサも飼い主が与えてくれる。奪われたことも自分で勝ち取ったこともねえ、甘ちゃんの動きだ。本当の戦闘じゃ通じねえぞ」
 そんな……。
「キャットフードもらって満足してるんだろ? たまに刺身とかもらったら大喜びで。お前、命懸けで何かをもぎ取ったことあるか?」
「確かにそういう経験も必要だな」
 ホワイトの言葉にブラックも頷く。
「ま、環境が環境だけに無理な注文か」
 ――悔しい。僕だって男だ。
 帰ってふて寝してたら、外は暗くなっていた。台所を通ると魚を焼いた匂いが残っている。今夜はサンマか。まひるちゃんが分けてくれるだろう。
「パパったら急に接待だなんて。まひるも友達と食べてくるし……」
 えっ、ケチで怖いママしかいないの?
(命懸けでもぎ取る……)
 白玉さんの言葉を思い出す。――よし、男になってやる。僕は決意した。

 ママがご飯をよそいに行く。僕は椅子に乗り、テーブルに前足を掛けて食卓を偵察した。……あれ、サンマはどこだ? 匂いがわからない。
「茶太郎、下りて」
 ママに見咎められ、一旦床に降りた。ママが着席し、テレビをつけて一人食べ始める。あ、今サンマの匂いが。ラップをかけてたのか。テーブルに飛び乗りたいけど、タイミングが肝心だ。
「律クン、素敵……」
 ママの箸が止まった。目はテレビに釘づけ。――今だ! 僕はテーブルにジャンプした。
「こら!」
 サンマに口が届く前にママに首を掴まれる。
「もう、お腹空いたわけ?」
 部屋の隅に連行され、キャットフードを用意された。確かに腹ペコだけど、今はミッションが……。
「何よ、食べないわけ?」
 威圧感が半端ない。仕方なくエサ皿に頭を突っ込んでカリカリかじる。ママは席に戻った。――このまま引き下がれない。背中でママの気配を窺いつつ、次のチャンスを狙う。
「キャー!」
 突然の悲鳴とガタガタッという音。振り返るとママが椅子の後ろに隠れてた。
「ネ、ネ……」
 ママは震えてる。一匹のネズミがテーブルの脚をよじ登っていた。――こいつ、ダークラッツだ! ネズミは食卓の上を走り始める。僕はテーブルに飛び乗った。一瞬、食べかけのサンマに誘惑される。
(今なら奪えるけど……)
 首を横に振る。敵を倒すことが先決だ。
「ニャンチ・クラッシュ!」
 逃げようとするネズミに、爪を出した前足を思い切り叩きつけた。噛みついてとどめも刺す。
「チ、チュ……」
 ネズミは霧となって消えた。僕はテーブルから降りてママにすり寄った。
(もう大丈夫だよ)
「茶太郎……退治してくれたの?」
 ママが僕の背を撫でた。

「――で、結局サンマは?」
 し……ホワイトが口を開いた。
「それが、ご褒美だってママが分けてくれて」
「やるじゃないか。敵を倒してサンマもゲットとは」
 ブラックに褒められる。
「でも、命懸けで得たわけじゃ……」
「んなつまんねえことに命懸けんなよ」
 そりゃ、ホワイトにしたらつまらないことだろうけど。
「無理に命懸けるこたねえよ。守るべきものが見えてりゃ、自然と体は動くもんだ」
「そうそう、愛があればね」
「だけど、二匹とも昨日は命懸けでもぎ取れって……」
「ブラックが褒めて俺も褒めたんじゃ締まらねえからな。適当に厳しめのセリフ言ってみた」
「さすがホワイト、アメとムチだね」
 ……気紛れ戦士は発言も気紛れだった。
「昨日ブラウンが一匹倒したし、今日は戦い休みな」
「賛成。昼寝日和だし」
 ……やっぱそうなります?
 ぬこレンジャーはこの町でぼちぼち戦ってます。




※2015年4月に執筆。
※『時空のはざまより』第28回「根古野町の空の下」の続編になりますが、本作単体でも楽しめるように書いたつもりです。


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