世の中に絶対なんてものは無い。 形あるものは姿を変えゆき、 人の心も移ろう。 常識は時代や場所によって非常識へと変わり、 強者と弱者、 栄える者と衰える者、 立場と状況はめまぐるしく入れ替わっていく。
絶対じゃないものを絶対であるかのように錯覚するから、 裏切られたと思うのだ。 落胆する者、 悲嘆する者、 憤る者、 反応は様々なれど、 全てはその対象を信じていたからこその反応だ。 裏切られるのが嫌なら、 最初から信じなければいい。 そう、 絶対的な変わらないものなど無いのだ。 友達も社会も、 家族や恋人も、 愛も夢も、 未来も。 そして、 自分自身も。
時々、あの頃のことを夢に見る。 夢の中の私は、 あの頃そうだったように、 律儀に生真面目に、生き生きと、 役目を果たすべく奔走する。 夢から覚めた時の、 今の生活の現実が徐々に甦ってくる感覚。 哀しさと虚しさとあきらめとがごちゃ混ぜになって、 しばしベッドで天井とにらめっこする。
あの頃、あの『道』を懸命に歩んでいた私。 失敗や空回りも多かったけれども、 私という存在に意味を与えてくれた『道』は、 あの頃の私にとって最も正しく価値のあるものであり、 何よりも優先すべきものだった。 誇りであり、喜びだった。 「この『道』を生涯歩みます」 「この『道』に全身全霊を尽くします」 嘘偽りの無い思いであり、 本心からそう誓いを立てた。 『道』を離れた未来など考えられなかった。
もう距離を置いて久しいあの『道』。 あの時、どうしても離れざるを得なくて、 それが辛くて、 いっそ忘れようと蓋をした。 いつしか『道』から離れた生活に馴染み、 『道』が無くても生きていられる自分に気付いた。
あの思いは、 あの誓いは、 何だったのだろう? 嘘を吐くつもりなど全く無く、 百パーセント本気の本気だったはずなのに。
あの『道』が間違いだったとは思っていない。 だけど、あの頃のような情熱と一途さはもう持てない。 罪悪感とノスタルジーが胸を刺しても、 もうあの頃には戻れない。
私はあの頃の私を裏切った。 人から裏切られた経験よりも、 この自分への裏切りが今も胸を疼かせる。 あの頃の私が「裏切り者」と今の私を責め立てる。
あの頃の私よ、 あなたは自分を過信していたのだ。 己の弱さ、己の心の移ろいやすさに気付かず、 自分は変わらない、変わるはずはないと、 傲慢にも思い込んでいた。 裏切り者になるのが嫌なら、 最初から自分など信じなければよかったのに。
昨夜もあの頃の夢を見た。 現実にはもうとっくに裏切っているのに、 夢の中の私は喜々として『道』を歩んでいた。
これからも私はあの頃の私に謝り続けるのだろうか。 それとも、 それもいずれは変わっていくのだろうか。 私は再び私を裏切るのだろうか。
※2016年9月に執筆。
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