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作品名:時空のはざまより2 作者:光石七

第1回   光石七の自己満足的隣室奇譚【テーマ:隣室】
 どうも、光石七です。テーマが「隣室」ということで、初めて一人暮らしをしたアパートでの体験をお話しします。
 今から十ウン年前、入試直後に雪道で滑って転ぶという不吉な出来事を乗り越え、私は大学に合格しました。私の故郷、滅多に雪降らないんですよね。ちらっと降っただけで大はしゃぎ、積もれば一大イベントで。あの時は試験が終わった解放感もあって余計に雪に浮かれて……って、これ関係ないか。
 で、部屋探しをしまして。学生と社会人が半々という、三階建ての横長のアパートの二○三号室に決めました。
 引越したら両隣と上下の部屋の人に挨拶すること、そう親に教わりまして。今は女性の一人暮らしだとわかると危ないので引越しの挨拶はしないとか。でも、当時の私は親の言うとおり一人で挨拶に行ったんです。ああ、純粋だったなあ、若かったなあ……。
 あ、ここからが本題ですよ。左隣の二○二号室の方には昼間お会いした時に挨拶しました。夕方、他を回ろうとまず右隣へ。二○四号室、表札には『レイザーストーン』――。その表札を見たのはその時が初めてで。階段上って自分の部屋までに前を通るのは二○一号室と二○二号室だけだったので。レイザーストーンって……外人さん? 外国の人と接する機会なんてほとんど無かった私、心臓バクバクですよ。でも、勇気を出してピンポンしました。「はーい」とドアを開けて出てきたのは……スウェットに半纏姿の三十代らしき女性。黒髪のショートカットで、顔立ちはどう見ても日本人。面食らいながらも、私、挨拶しました。
「あの、二○三号室に越してきた原(仮名)です」
「どうも。ナーナ・レイザーストーンです」
 流暢な日本語、見た目も日本人。でも名前が……。
「学生さん?」
 戸惑ってたら向こうが聞いてきました。「はい」と答えたら、「そっかあ。ボクは妄想家なんだ」って。……ボク? モウソウカ? 私、頭が混乱して。
「だから、ボクのことは『レイザーストーン先生』って呼んでね。『ナーナさん』でもいいよ」
 何も言えずにいたら「ニャー」と奥から黒猫が。ナーナさんにすり寄って鳴き続けます。
「ちー様、お腹空いたの?」
 ナーナさんは黒猫を抱き上げました。可愛い猫に一瞬見惚れたけど、ふと気付いた。
「あの、ここペット禁止じゃ……」
「ちー様はペットじゃなくて家族だもん。ボクの姉なの」
「……は?」
 家族というのはわかるけど、姉って……。
「ちー様、ごはんだねー。あ、原ちゃんも上がってよー」
 ナーナさん、片手で猫を抱き直して、もう片方の手で私の腕を掴んで。なんか抵抗できず、仕方なくお邪魔しました。
 上がって、と言った割に部屋は散らかってて。色々退かして座ることに。こたつの上には当時はまだ高価だったノートパソコンがありました。
「ボク、自分の妄想を文章にしてウェブに投稿してるんだ」
 猫のエサを用意しながらナーナさんが言いました。パソコンなんて間近で見たことすら無かった私は、「ウェブ」の意味が分からないまま頷きました。
 猫がエサを食べ始めると、ナーナさんは炊飯器を開けました。
「これあげる」
 取り出したのは四つ折りの紙。……なんでそんなところに? そう思いながらも受け取りました。広げてみたら『四十ニシテ惑ハズ』という文字が。……論語? あ、小説だ。
「後で読んでみて。これは現代日本が舞台だけど、昔のヨーロッパ風の架空の国も妄想し甲斐があるよね」
 ふうん。私も物語を空想するの好きだけど……って、あれ? ナーナさんってどこの国の人?
「ボクは生粋の薩摩オゴジョやっど」
 ……同郷? でもナーナ・レイザーストーンって……。
「それは今度、ね。――また会おうね」
 いきなりサヨナラいわれて、目の前がどんどんぼやけていって。……気が付いたら、二○五号室の前に立ってました。左隣は二○三号室、私の部屋です。――このアパート、四が付く部屋は存在しなかったんですよ。だけど、私の手には四つ折りの紙が。中は……白紙でした。
 実は、この事ずっと忘れてたんです。思い出したのはこのサイトに登録して少し経った頃。テーマ「迷う人」で、本文は書けたけどタイトルが決まらない。何度も読み返して考えて。ふっと孔子の言葉が浮かんでそれにしたんですけど、プリントアウトした時……はっとしたんです。このタイトル……。
 考えてみればペンネームも不思議で。由来は「石も磨けば光る」にラッキーセブンなんですけど、石って英語でストーンですよね? 「レイザー」と来れば光線、七を伸ばして発音すれば……。
 私、片付け下手だし、基本楽な格好ですし。黒猫拾って飼ってますしね。ナーナさんは未来の私だったのかなあ、なんて。まあ、あそこまで変人じゃないつもりですけどね。

*この話はフィクションです。実在の人物、ぬこ様等とはほとんど関係ありません。




※2015年1月に執筆。


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